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知って得する病気の話 進歩する肺がん薬物治療について(呼吸器内科)

[2020年3月19日]

ID:605

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知って得する病気の話

進歩する肺がん薬物治療について

奥野雄大(呼吸器内科)


「5つのがん」に含まれる肺がん
 
日本人の死因別死亡率の推移では、がんによる死亡率が増加の一途を辿っています。心臓病、脳卒中を大きく引き離し、現在、がんが死因の1位です。厚労省の指針で検診を勧められる「5つのがん」肺がん、胃がん、乳がん、大腸がん、子宮がんは他のがんより比較的死亡率や罹患率が高く、早期発見により、有効な治療を受けることができます。


肺がんの早期発見 ~胸部X線検査とCT検査~
  集団検診で胸部X線検査(レントゲン)が行われますが、これは結核検診に由来するもので、実際には胸部X線検査よる肺がん発見率は50%以下とされます。一方、低線量CTによる検診の肺がん発見率は高く、胸部レントゲンの約4倍とされます。また、2cm未満の肺がんでは、胸部X線検査は79%を検出できず、CTは約5倍の感度といわれます。CTは、体の内部が輪切りにされた状態で画像化されるため、 胸部X線検査では見つけにくい小さながんや、心臓や背骨に隠れているような末梢型肺がんも発見できます。実際に、早期肺がんにおいて、他の目的で行われたCT(冠動脈CT等)で偶発的に発見されることが多くあります。
検診発見以外に、症状が契機で発見される肺がんもありますが、いずれも、1日でも早く専門科を受診することをお勧めします。


肺がんの病期(ステージ)
  病期(ステージ)は、発見された時点でのがん進行の程度を示す言葉で、肺がんでは、がんの大きさ、広がり、リンパ節やほかの臓器への転移の有無によって決定されます。病期は0期から4期まで分類されますが、0期に近いほどがんは小さくとどまっており、4期に近いほどがんは広がっているとみなします。正確な病期診断のためには、CT検査のほか、転移しやすい脳、肝臓、副腎、骨を頭部MRI検査や骨シンチグラフィ、PETなどの検査が推奨されています。


肺がんの治療

   肺がんそのものを治療する手術や放射線療法などの局所療法と、全身に広がったがんを治療する薬物療法などの全身療法、これらを組み合わせる集学的治療に大別されます。病期と全身状態から、1人ひとりにベストな治療法が選択されます。また、薬物治療においては、肺がんの組織(小細胞肺がんと非小細胞肺がん)で大きく分かれます。


小細胞肺がんの薬物治療

 小細胞肺がんは進行が極めて速いがんで、 病巣が限られているように見えても、すでにがん細胞が全身に広がっている可能性がありま す。がん細胞の分裂スピードが速いので、手術適応は1 期のみとされます。2期以降の治療の主体は化学療法(抗がん剤治療)になります。また、病巣が限られている場合には化学療法に放射線療法を併用することがあります。2019年より免疫チェックポイント阻害剤であるアテゾリズマブが、進展型小細胞肺がんに対する適応拡大の承認を取得し、実際に当院でも使用されています。


非小細胞肺がんの薬物治療
  非小細胞肺がんの薬物療法は、手術による根治が難しい段階になってから単独で、あるいは再発・転移を防ぐために放射線療法と組み合わせて行われます。主体となる薬物治療には、(1)化学療法(抗がん剤)、(2)分子標的治療、(3)免疫チェックポイント阻害療法があります。これらの薬剤や治療法の使用戦略は、組織型、チェックポイントとなる分子の発現量、および遺伝子変異の有無で分けられます。 


分子標的薬とは

  分子標的治療は、がん細胞だけが持つがんの生存・増殖に関与する分子 (遺伝子やタンパク)を阻害する分子標的薬を用いて行う薬物療法です。肺がんではEGFRをはじめとし、ALKやBRAF、ROS-1といったがん遺伝子変異に対し、10種類を超える分子標的薬の使用が可能で、これらは進行・再発肺がんの約1年4月~1年5月に適応があります。分子標的薬は、がん細胞に狙いを定めているため、正常な細胞に与える影響を少なくすることができます。また、がんが生じ、増殖するメカニズムと治療戦略が合致するため、腫瘍縮小効果が早く、長期に使用することが可能です。現在、使用されているALK阻害剤の1つであるアレクチニブの客観的奏効率は85%を超え、また、無増悪生存期間の中央値は3年を超えます。

  近年、「ゲノム医療」という言葉を耳にしますが、分子標的薬治療もこれに含まれます。「ゲノム医療」とは、がん患者さんのがんに生じている遺伝子変異を網羅的に調べ、その結果を利用して最適な治療法を選択するものです。現時点では体制の整備が進められている段階であり、まずは、当院を含む近隣のがん診療連携拠点病院を受診することをお勧めします。


最後に

   当院は来年度より新規の呼吸器内視鏡機器を導入予定であり、早期診断を心がけています。
 肺がんは治りにくいがんの1つだといわれています。そのため、「肺がんを疑う」「肺がんである」と告げられて強いショックを受けてしまいます。近年、肺がんの分野では効果の高い薬剤が次々に承認を得、治療選択肢は非常に多様化しています。肺がん組織やがん遺伝子変異等を確認することにより、一人ひとりのがんの状態に合わせた「個別化治療」を行うことで、よりよい状態で長く生きることが可能となっています。私たちはそれを全力でサポートします。決して希望を捨てず、まずは病院を受診してください。