知って得する病気の話_EPAを味方につけて動脈硬化を予防しよう(循環器科)
[2017年8月15日]
ID:260
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EPAを味方につけて動脈硬化を予防しよう
脂肪酸のいろいろ
脂質はわたしたちのからだをつくり、健康を守るためにさまざまな役割を担っています。脂質にはいろいろな種類の脂肪酸があって、それぞれに特徴があります。ですから、脂質全体の量だけでなく、脂肪酸の種類を考えて、ちょうどよい量をとることが大切です。今回は、動脈硬化を予防してくれる脂肪酸についてのお話をします。
脂肪酸は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に大別されます。さらに不飽和脂肪酸は、n-6系不飽和脂肪酸とn-3系不飽和脂肪酸などに分けられます。飽和脂肪酸はバター、牛乳、卵黄、牛肉などの動物性の脂肪に多く含まれています。n-6系不飽和脂肪酸には、リノール酸、アラキドン酸などがあり、植物油、マーガリン、マヨネーズ、豚肉などに多く含まれます。一方で、n-3系不飽和脂肪酸には、EPAやDHA、α-リノレン酸などがあり、魚介類、海草類、シソ油、エゴマ油などに多く含まれます。
これまで、飽和脂肪酸のとりすぎは健康に悪く、植物油に多く含まれるリノール酸は健康に良いとされてきました。しかし、最近になって、その考え方が間違っていることがわかってきました。リノール酸は、体内で最終的にアラキドン酸になりますが、このアラキドン酸が、炎症や癌、高血圧、動脈硬化を引き起こすことがわかってきたのです。
対照的に、n-3系不飽和脂肪酸であるEPAには「血液をサラサラにする」「中性脂肪を下げる」「心臓病・脳梗塞を防ぐ」「動脈硬化を防ぐ」以外にも「認知症予防」「花粉症などのアレルギーが治る」などのさまざまな効果があることがわかってきたのです。
尚、今話題のトランス脂肪酸は、油脂に水素添加をすることで人工的に作られるもので、悪玉コレステロールを増やすだけでなく善玉コレステロールを減らすことが報告されています。マーガリン、ショートニングや、それらを原材料に使ったパン、ケーキ、ドーナッツなどの洋菓子、揚げ物に含まれています。
EPAとは?
「エイコサペンタエン酸」の略称です。いわし・さば・あじなどの青魚に多く含まれるn-3系不飽和脂肪酸のひとつで、必須脂肪酸です。必須脂肪酸は体内で作ることができないので食事から摂取しないといけません。EPAが注目されるようになったのは、1960年代に行われた、グリーンランドのイヌイットの人々を対象に行った調査がきっかけです。イヌイットは、野菜をほとんど摂らず、アザラシなどの肉を主食としています。
にもかかわらず、牛や豚など肉食中心のデンマーク人より、心筋梗塞で亡くなる方が非常に少なかったのです。研究の結果、イヌイットの血液中に含まれるEPAが、ヨーロッパ人に比べてきわめて多いことがわかりました。彼らが摂っているEPAは、アザラシなどが主食とする青魚に由来するものだったのです。
EPA摂取の減少と動脈硬化性疾患の増加
近年、食生活の欧米化により、日本人の脂質摂取は増えています。中でも、動物性脂肪酸やアラキドン酸系列の植物性脂肪酸の摂取が増えています。一方、EPA系列である魚類の摂取量が減少しているために、相対的にEPAの摂取量は低下しています。
このような食生活の変化により、総脂肪に対するEPA摂取の比率が低下し、脳梗塞や心筋梗塞による死亡が増加していることがわかっています。
生活習慣の見直し、特に食事中の脂肪の「質」を見直し、EPA摂取を増やすことが動脈硬化予防につながると考えられます。
EPAとアラキドン酸の比率(EPA/AA)
このように、EPAとアラキドン酸の機能は全く逆の関係にあります。EPAとアラキドン酸のバランス指標がEPA/AA比と呼ばれ、血液検査で測定することができるために注目を集めています。福岡県久山町の40歳以上の全住民約3,100人を対象とした調査結果では、EPA/AA比により、EPAの比率が高いと心血管死亡率は約3分の1に減ることがわかりました。
この調査では、EPA/AA比0.75以上が最も高い群に分類され、0.25未満が最も低い群に分類されています。参考までに、彦根市立病院に心筋梗塞で運ばれた患者さんのEPA/AA比は平均で0.28と非常に低い数値ですから、血液中のEPA/AA比がいかに大切かわかっていただけると思います。EPAはコレステロールや中性脂肪が高い患者さんに対して医薬品としても認可されているため、我々は、EPA/AA比を測定して、低い患者さんには積極的に処方しています。
EPAを上手にとるコツ
EPAは主に青魚に多く含有されています。 魚の種類によって、EPAの含有量は大きく変わります。
また、調理法によって含有量が減ることがあります。 EPAを効率よく摂取するためには、生で食べるのが最も効果的ですが、加熱調理する際は、なるべくEPAの流出を抑えるような工夫をしてください。例えば、煮魚を作るときは、水を少なめにするまたは味付けを薄塩にするなどして、煮汁まで飲むようにする。焼き魚の場合は、そのまま焼くよりも、小麦粉を魚の表面にまぶしてから焼く方が、油を多く残すことができます。また、鮮度が良く脂ののった旬の時期の魚には、より多くのEPAが含有されています。
EPAを味方につけよう
このように、EPAを味方につけることで、生活習慣病のリスクが下がり、高齢者であれば認知症の予防になることが期待できます。知的に食べ、知的に暮らすことが、動脈硬化を予防する早道といえるでしょう。
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