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緩和ケア病棟

[2021年6月8日]

ID:174

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私たちが考えている緩和ケア病棟とは…

緩和ケア病棟は、痛みなどの身体的苦痛が強くなり、緩和ケア外来の診療だけでは十分な対処ができなくなってきたがん患者さんや、手術や抗がん剤治療といった従来的な治療が困難になった患者さんが入院するための病棟です。ここでは身体症状の緩和はもちろんのこと、患者さんや家族の思いを尊重しながら、その人らしさを大切にしたかかわりをしていきます。入院してくる患者さんの中には、まだあきらめたくない、何とか治療を続けてほしいと思っている人もいれば、最後の時間を大切にしながら充実した日々を過ごしたいと思っている人もいます。治りたいという「希望」を持っている患者さんには、可能な限り治療的な関わりを続けていきます。また「安らぎ」を求めている患者さんには、最後まで心地よく過ごせるようできるだけの援助をしていきます。このような援助の仕方が、患者さんの思いに寄り添った関わりであると私たちは考えています。

7つの基本方針

「安らぎ」「希望」

  • 先ずは身体的苦痛を和らげる
  • 可能な限り真実は伝える
  • 代替医療を積極的に利用する
  • 治りたいという思いも大切にする
  • その人なりの希望に寄りそう
  • 必要に応じて「死」に関する話もしていく
  • 家族のケアにも力を注ぐ

当院緩和ケア病棟では、「安らぎ」と「希望」を中心テーマに据え、それを実現するために上記のような7つの基本方針に基づいて治療やケアに当たっています。

代替医療について

代替医療とは、現代西洋医学の領域には入らない医学・医療体系、健康法の総称であり、実際にはさまざまなものがあります。一般的にはリラクセーション効果を目的としたアロマセラピーや音楽療法といったものがよく用いられていますが、私たちは最後まで治療的かかわりを希望する患者さんのために、少しでもがんの進行が抑えられることを期待して治療的代替医療も必要に応じて用いています。この試みは一般の緩和ケア病棟ではあまり行われていないことであり、私たちの緩和ケアに対する独自の考え方に基づいて行っているものです。

では当院の緩和ケア病棟で取り入れている代替医療について簡単に紹介させていただきます。

1.マッサージ

マッサージ画像

マッサージ

マッサージをすることで血液とリンパの流れをスムーズにし、身体をまもり自己治癒力を高める効果があります。国家資格保有女性施術者により身も心も癒される、ひとりひとりの身体状況に合わせた心地良いマッサージを堪能してもらえます。

2.アロマセラピー

写真:アロマセラピー

アロマセラピー

香りの精油(アロマオイル)を使って15~30分ほどかけて体のトリートメント(マッサージ)を行います。リラクセーションが主な目的ですが、むくみに対してもとても効果的です。足浴やアロマポットを使用したアロマセラピーも行っています。最もポピュラーな代替療法のひとつであり、患者さんからはとても好評です。

3.リフレクソロジー

写真:リフレクソロジー

リフレクソロジー

足裏マッサージとしてよく知られている療法です。足裏には各臓器に対応する反射区があり、そこを刺激することで血液やリンパの流れを改善させ、諸症状の緩和や心身のリラクセーション効果をもたらします。アロマセラピーと併用しながら行われることもあります。

4.ティーサービス

写真:ティーサービス

ティーサービス

緩和ケア病棟に長年来ていただいているボランティアです。午後のひととき、ホッとできる時間を過ごしていただくために、患者さんやご家族にメニュー表からお飲み物を選んでいただきます。心を込めて準備したお飲み物には、ボランティアの愛情が注がれています。

5.アニマルセラピー

写真:アニマルセラピー

アニマルセラピー

動物との触れ合いによって心と体に良い影響をもたらす療法です。とてもおとなしく吠えたりすることのない犬が来てくれます。犬好きの患者さんはとても素敵な笑顔で撫でまくり、みんなをハッピーな気分にしてくれます。付き添いの方のハーモニカ演奏も楽しんでいただけます。

6.アートセラピー

写真:アートセラピー

アートセラピー

日常にあるものや、昔懐かしいもの…例えば松ぼっくりや毛糸など多彩な小物をセラピスト自ら持って来てくださいます。病室の飾りを作る方、大切なご家族へのプレゼントを作る方、みなさん楽しそうに取り組み、素敵な笑顔にあふれます。セラピストがそばでお手伝いするので、どなたでも楽しんでいただけます。

7.傾聴

画像:傾聴

傾聴

闘病中のつらさだけでなく、これまで楽しかった思い出など、語りたいお話をゆっくりと聴かせていただく…これが傾聴ボランティアです。誰かに話すことで、心が少し軽くなります。患者さんだけでなく、ご家族のお話にも耳を傾け、気持ちの整理のお手伝いをする専門家が対応します。

8.音楽療法

写真:音楽療法

音楽療法

エレクトーンや電子ピアノの伴奏で皆と一緒に楽しく歌います。もちろん歌を聴いているだけでも良いのですが、歌うことが好きな患者さんにとっては、とても楽しみな時間となります。懐かしい思い出の曲など患者さんのリクエストにもこたえてくれます。

治療的代替医療

緩和ケア病棟に入院してくる患者さんの中には「まだあきらめたくない」という思いを持っている人も少なくありません。特に50才代までの若い人は、そのような思いを持つのも無理はありません。しかし現実的には手術や抗がん剤などによる治療はすでに困難な状況にある場合がほとんどです。このような場合には、本人の自己治癒力を刺激し、それによって可能な限りがんの進行を抑えるようなアプローチ、つまり治療的代替医療が最も適していると考えています。ほんのわずかであったとしても、最後まで望みを持ち続けたいと思っているのであれば、やってみる価値は十分にあると思っています。たとえうまくいかなかったとしても、最後まであきらめずにがんばりたいという思いだけは大切にできたと言えるのではないでしょうか。

そんな患者さんの思いに寄り添うために、私たちは希望に応じて治療的代替医療を取り入れています。具体的には以下のようなものをよく用いています。

1.丸山ワクチン

結核菌の抽出物から作られているもので、すでに40年以上の歴史があります。作用としては白血球を活性化させ、がん細胞の分裂を抑制します。またコラーゲンを増強させることで損傷した細胞を修復するとともに、がん細胞を包み込み、その増殖を抑え込むとも言われています。しかし他の治療的代替医療と同様、効果に関してはまだはっきりとした証明がされていません。ただ経費的には1ヶ月1万円以下と安価であり、また週3回の皮下注射ですので、経口摂取ができない患者さんにも使うことができるという利点があります。そのため、少なくとも患者さんのQOL(生命・生活の質)を高め、維持するのには有効であると考えています。

2.ホメオパシー

ホメオパシーは200年以上の歴史をもつ代表的な代替医療のひとつですが、日本ではまだほとんど知られていません。患者さんの症状や心理状態などの情報をもとに、ひとつのレメディ(ホメオパシーの薬)を決定し、それを処方することで患者さんの症状を改善しようとする方法です。ホメオパシーの考え方は、西洋医学のように症状を抑え込むというものではなく、何かしらの理由で十分な力を発揮できなくなっている自己治癒力が、再び本来の力を発揮できるように援助するというのが基本的な発想です。ヨーロッパなどでは大変ポピュラーな療法であり、フランスやドイツなどはすでに医療の中に組み込まれ、保険の適応にもなっています。

3.種々の健康食品

健康食品やサプリメントには多種多様なものがあり、どれがよいのかは各人によって異なります。ただしどれも科学的根拠に乏しいのは事実です。しかしどんな治療法でもそうですが、絶対に効くという治療法がないのと同様に、絶対に効かないという治療法もありません。私たちはどんな治療法にでも可能性はあると考えています。ただしむやみやたらと健康食品を利用することにはあまり賛成はしませんし、またあまり高額なものはお勧めしません。人にもよりけりですが、自分と相性のよさそうなもの1~2種類を選び、月平均3~5万円程度を上限に利用していただくのが良いのではないかと考えています。

4.サイモントン療法

写真:カール・サイモントン博士と

カール・サイモントン博士と

サイモントン療法はカール・サイモントン博士(米)により開発された、がん患者さんとその家族(パートナーなど)のためのヒーリングプログラムです。30数年にわたり改良を加えて発展し、現在はアメリカ、ヨーロッパ、日本で提供されている療法です。この療法は、カウンセリングやグループ療法を通して、がんに対する間違った思いこみを修正したり、人それぞれが持っている肯定的な側面を引きだしたりすることで、感情の安定を図ろうとするものです。なおイメージ療法も、このサイモントン療法に中に取り入れられている手法のひとつです。

5.その他

上記のもの以外にもさまざまな治療的代替医療があります。今まで行ったことのある治療的代替医療としては漢方薬、アミグダリン(点滴)、ビタミンC大量療法、玄米菜食、腕振り運動、WT1ワクチン、リンパ球療法、ハイパーサーミア、イメージ療法などがあります。これらのものを患者さんの状態や希望なども考え合わせながら取り組んでいます。

心の治癒力について

治療的代替医療には多くのものがありますが、実は最も大切にしているのは患者さんが持っている「心の治癒力」です。人は誰でも自分を癒す力を持っています。つまり患者さん自身が心地よさや充実感、満足感、達成感、さらにはイキイキ感を持つことができたならば、それは自己治癒力を刺激し、がんの進行を抑制することも可能だと考えています。しかしただ単に前向きな気持ちを持ちなさい、と言ってもそれは困難です。そうではなくさまざまなつながりや代替医療を利用することで、自ずとそのような思いが持てるように関わっていくことが大切だと考えています。私たちがさまざまな代替医療を駆使しているのも、根底には「心の治癒力」をうまく引きだしたいという思いがあるからです。

研修医の皆さんへ

当院緩和ケア科では研修医も受け入れています。疼痛コントロールや精神的なケアといった緩和ケアの基本はもちろんのこと、他の緩和ケア病棟では学べない治療的代替医療や患者さんの「心の治癒力」を引きだすようなコミュニケーションスキルなどを学ぶことができます。また緩和ケアの研修を中心に行いながら、週に1~2日は他科の研修もできるようなシステムも考えています。詳細に関しては、緩和ケア病棟の黒丸までご連絡ください。

スタッフ紹介

黒丸 尊治

部長:黒丸 尊治
昭和62年卒業
日本緩和医療学会暫定指導医
日本心身医学会専門医
専門領域:緩和ケア、がんの心身医学

田村 祐樹

非常勤医師:田村 祐樹
昭和63年卒業
専門領域:緩和ケア、在宅ケア、食道外科

参考図書

黒丸尊治著「緩和医療と心の治癒力」(築地書館)
黒丸尊治著「心の治癒力をうまく引きだす」(築地書館)
黒丸尊治著「心の治癒力をスイッチON!」(BABジャパン)