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知って得する病気の話_急性期脳梗塞治療に関して(脳神経外科)

[2021年7月26日]

ID:746

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知って得する病気の話

急性期脳梗塞治療に関して

秋山 亮(脳神経外科)

脳梗塞とは

脳梗塞とは脳の血管が閉塞して栄養供給が絶たれることで神経細胞が死んで機能を失うことです。脳梗塞が完成してしまうと、死んだ脳細胞は再生しませんので後遺症が残ってしまいます。 
 特に脳主幹動脈閉塞症(脳の大きな血管の閉塞)では、脳梗塞の範囲は広くなるため重篤な後遺症が残り、身体機能の大幅な低下につながります。脳の血管は閉塞すると即座にその領域の神経症状が出現しますが、閉塞血管の全ての領域がすぐに脳梗塞となってしまうわけではなく、ペナンブラといって血流低下により機能は停止しているが、脳梗塞(脳細胞死)にならずに済んでいる領域が存在します。
 もし、迅速に閉塞血管を解除して脳血流を再開させることができれば、脳梗塞の領域を大幅に減らす、もしくは全く脳梗塞がない状態まで回復させることが可能です。


脳梗塞急性期治療の変遷と最先端治療 

このペナンブラの救済を目指して、近年の急性期脳梗塞治療はめざましく発展しました。脳血管を閉塞させている血栓を溶かして血流を再開させる血栓溶解薬として2005年にrt-PA(アルテプラーゼ)静注療法が認可され、超急性期脳梗塞に使用が可能となり、脳梗塞の予後が大幅に改善されました。

 しかし、昨今増加傾向にある、心原性脳塞栓(心臓でできた大きな血塊が脳血管に詰まる脳梗塞)などによる脳主幹動脈閉塞(脳の大きな血管の閉塞)では、rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法では閉塞血管まで薬剤が供給されないことで再開通率が低く、決してよい治療成績ではありませんでした。

 そこでカテーテルによる血管内治療によって直接血栓を回収する治療である血栓回収療法が開発され、2013年に認可されたステントリトリーバーによる血栓回収療法によって脳主幹動脈閉塞による脳梗塞の治療成績は著しく改善されました。現在、血栓回収療法は全国に普及し、閉塞血管の再開通率は約90%まで劇的に改善しております。

 当院でも、この血栓回収療法を24時間365日の体制で行っており、 100%近い再開通率を達成しております。治療開始から再開通までの時間は最速で10分を切っており、当院では迅速かつ確実な治療が可能と考えております。

血栓回収療法の実際

 血栓回収療法は、右鼠径部の血管から挿入したカテーテルで直接血栓を回収する血管内治療のことです。実際に脳主幹動脈閉塞(脳の大きな血管の閉塞)を診断した後は、すぐに血管撮影室に移動して治療を開始します。右足の付け根の動脈に局所麻酔でシース(カテーテルの入り口)を挿入します。支えとなるガイディングカテーテルを頚動脈に留置し、そこから細かいカテーテルとワイヤーを使用して血栓閉塞部位まで到達します。細かいカテーテルからステント型の血栓回収器を血栓の直上に展開し、絡め取るようにして血栓をガイディングカテーテルを通して体外に回収します。

 また近年では、吸引型血栓回収カテーテルも発展し、血栓の近位端に吸引カテーテルを誘導し、特殊なポンプで陰圧をかけて血栓を吸着させた状態で同様にして体外に回収する方法もあります。

 当院ではこのステントリトリーバーと吸引カテーテルを併用した方法を採用して、良好な再開通率を得ております。

脳梗塞急性期治療で重要なこと

 この治療で一番大切なのは発症から血流再開までの時間をなるべく短くすることです。いかに脳血管再開通治療が発展して閉塞血管を再開通させる技術が向上しても、発症から病院まで到着される時間が経過してしまい救済できるペナンブラがない状態であれば、再開通治療によって脳梗塞を救うことはできません。発症してから治療の時間が早ければ早いほど救済できる脳神経細胞は増えて再開通後の予後は良くなります。
 脳梗塞は起こってから時間が過ぎるに従い砂時計の砂が落ちていくようにどんどん助けられる脳(脳細胞)が減ってしまいます。脳血管再開通療法は1分1秒を争う時間勝負の治療であり、発症後1秒でも早く当院に到着してもらうことがとても大切です。具体的には、片麻痺(一方の顔面・上下肢が動かない)、失語(喚語困難、言語理解不良)、共同偏視(両眼が一方のみを向いて固定する)、半側空間無視(半分の空間を認識できない)症状があれば、なるべく早く(救急車で)に来院していただくことが大切です。当院に到着された後は我々が全力でお助けします。