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知って得する病気の話 心不全とリハビリのはなし(循環器内科)

[2020年3月24日]

ID:606

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知って得する病気の話

心不全とリハビリのはなし

髙橋宏輔(循環器内科)

昨年の4月から当院循環器内科で勤務しております髙橋と申します。今回は心不全と心臓リハビリについてお話したいと思います。
心不全パンデミックという言葉をお聞きになったことがある方も多いかと思います。高齢化に伴い、心不全患者さんが増加することを「心不全パンデミック」といいます。では、心不全患者さんが昔に比べてどれほど増加してきたかというと、(表1)にしますように、新規に心不全を発症される患者数は右肩上がりで増加をたどっています。少し具体的に見てみると、1980年には12万人であった新規に発症される心不全患者数が、2000年には20万人へ増加し、2020年には35万人へ増加しています。高齢で初発の心不全患者さんが増加しており、当院でも同様の経過がみられています。

図1 日本における新規心不全患者さんの推移


心不全になるとどうなるのか
  
心不全の具体的な症状は、息切れや倦怠感、下肢のむくみなどが挙げられます。症状が悪化すると自宅で日常生活を継続することが困難となり、入院治療が必要になります。心不全の特徴は、この心不全入院を繰り返すということです。繰り返す心不全は結果として身体機能を低下させます(表2)。心不全の治療は、薬物治療、カテーテル治療、デバイス治療、心臓リハビリなどありますが、どれか一つというわけではなく、必要に応じてすべて行っていきます。今回は、あまりなじみがないと思われる心臓リハビリについてお話します。

心臓リハビリ
 
心臓リハビリとは、リハビリと名前が付きますから、一言で説明してしまえば「運動」になります。以前は心臓病のある方は安静が第一で、運動は避けるべきだと考えられていました。たしかに、心不全となり病状が安定しない時期や、非常に心機能が低下した状態での運動は危険ですが、最近は心臓にとって「運動」は欠かせないものとなっています。リハビリテーションというと、骨折や脳卒中後に、動かなくなった手足が動くように訓練している場面を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。心臓リハビリテーションの目的は、こうした機能回復だけではないのです。入院中に行われる「急性期リハビリテーション」は、急性心不全で入院した患者さんを早期離床させ、日常生活に戻すために行われるものです。高齢者では、入院がきっかけでそのまま寝たきりになってしまう危険があるため、早期の社会復帰を目指すための訓練はとても大切です。そして、さらに重要になるのが、回復期および退院後の「慢性期リハビリテーション」です。有酸素運動を中心とした運動を続けることで、自律神経や血管の機能を是正し、心不全の悪化による再入院を防ぐこともできることが明らかになっています(表3)。さらにそれだけでなく、抑うつ・不安の改善にも効果があり、結果としてQOL(生活の質)の改善・維持に非常に有用とされています。心臓リハビリテーションは、心筋梗塞・狭心症・心臓手術後・大血管疾患(大動脈解離・解離性大動脈瘤・大血管手術後)・慢性心不全・末梢動脈閉塞性疾患の患者さんが対象になります。これらの病気の場合、通常心臓リハビリ開始から150日の期間、健康保険が適応されますので、退院後5カ月を目安としてリハビリテーションを行うために外来通院していただくことができます

図3 心不全患者における心臓死


心臓と抑うつ

 心臓疾患で入院などを経験されると、病気そのものの苦しみのほかに、家族のことや仕事のこと、将来のことなどさまざまなことで悩んでしまうものです。多くの場合、治療を行い自覚症状が改善することで、少しずつですが悩みも解消されていきます。しかし、中には悩みを引きずり、精神的・身体的にも症状が出現する「抑うつ」状態におちいられる方がおられます(抑うつとは、「気分が落ち込んで何にもする気になれない」、「憂鬱な気分」などの心の状態が強くなり、さまざまな精神症状や身体症状がみられることを言います)。抑うつによって心不全発症のリスクが高まるという報告もあります。


当院における心臓リハビリテーション
 心臓リハビリは心臓リハビリ療法士の指導のもと行います。患者さんそれぞれで必要な運動強度が異なるため、定期的に心肺運動負荷試験(CPX)を行い、それぞれの患者さんに合わせた「運動処方」を作成し行っています。
 この運動処方は、強すぎても、弱すぎても効果がでないため注意が必要です。一般に最大心拍数の40~50%が目標で、その目安として運動中の心拍数を用います。この最適な運動中の心拍数を心肺運動負荷試験によって決めるわけです。最適な運動のもう一つの指標は自覚症状です。ボルグ指数(図1)と呼ばれるスコアを用いて評価し、11点(楽である)から13点(ややきつい、汗ばむ)の間が好ましい強度とされています。1日の運動時間は30~60分。週に3-7回が適切と考えられています。当院ではこれまでのべ428人の方が心臓リハビリをされており、2019年に新たに心臓リハビリを開始した人は76人おられました。


最後に

 当院では、2019年1月から12月の間で4175件の心臓リハビリを行っています。すべての心臓疾患の方を対象するわけではありませんが、今後「心不全パンデミック」によって心不全患者さんの数が増加することが見込まれている中、心臓リハビリという適切な運動が心不全発症の予防・入院の予防になることが伝われば幸いです。