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知って得する病気の話 大腸がんについて(消化器外科)

[2020年3月19日]

ID:574

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知って得する病気の話

大腸がんについて

﨑久保守人(消化器外科)

はじめに
 皆さんの回りの人や有名人のニュースなどで大腸がんの話を聞かれることは珍しく無い状態かと思います。実際、日本のがん統計で大腸がんは、がんを発症した人の中での種類別で1位(2014年データ)、がんで死亡する人の中での種類別で2位(2017年データ)となっています。割合では男性の10人に1人、女性の13人に1人が生涯どこかで大腸がんになる確率になります。今回ここでは大腸がんについてご紹介したいと思います。
 大腸は、食べ物の最後の通り道です。小腸で栄養を吸収された残りの水分を吸収します。右下腹部から始まり、大きく時計回りに回って肛門につながります。通過する順に、「結腸(盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)」と「直腸(直腸S状部、上部直腸、下部直腸)」に分けられます。
 大腸がんは、この大腸の粘膜から発生し無秩序に増殖します。内腔側に隆起して狭めたり腸壁側に深く浸潤したりします。やがて大腸の壁の外まで広がり腹腔内に散らばったり、大腸の壁の中のリンパ液や血液の流れに乗って、リンパ節や肝臓、肺など別の臓器に転移したりします。

症状
 ある程度進行してから出ることが多くなります。血便や下血、下痢と便秘の繰り返し、便が細い、便が残る感じ、おなかが張る、腹痛、貧血、体重減少などがあります。さらに進行すると腸閉塞(イレウス)となり、便は出なくなり、嘔吐などの症状が出ます。極端な場合は腸に穴が開いて大変危険な状態になることもあります。大腸がんの転移が、肺や肝臓の腫瘤として先に発見されることもあります。

リスク因子・予防法について
 
がんは遺伝子の異常などが原因となって発生します。そのため、遺伝性の病気である家族性大腸腺腫症やリンチ症候群の人では、大腸がんが発生しやすくなります。それ以外では生活習慣との関わりがあるとされていて、肉食や飲酒、喫煙などが発生リスクとしてあげられています。逆に、食物繊維を含む食品の摂取や運動が予防に効果的とされています。

検診について
 男女ともに、40歳以上は年に1回、大腸がん検診を推奨されています。ほとんどの市町村では、検診費用の多くを公費で負担しており、一部の自己負担で受けることができます。検診の内容は、問診と便潜血検査です。便潜血検査による検診は、がん死亡率を減らす科学的根拠があり、安全、簡単、安価な検査です。ただし出血が便に混じっていないかを調べる検査のため、痔などでも引っかかることになります。要精密検査となった場合は通常、大腸内視鏡検査で直接大腸の中を確認することになります。

便潜血検査


検査について
 
大腸内視鏡検査は内視鏡を肛門から挿入して、直腸から盲腸までの大腸全体を詳しく調べます。ポリープなどの病変が発見された場合は、病変全体あるいは一部の組織を採取して(生検)、病理診断を行うことが可能です。ある程度進行が予測される場合は、転移の確認のためにCTやMRIといった画像検査も行います。 

治療について
 粘膜にとどまるもの、あるいは、粘膜を超えて粘膜下層に至るものの極めて浅い進行度の場合は、その他の一定の条件を満たせば、内視鏡で切除するだけで治癒が見込めます。それ以上の進行度の場合などでは、手術での切除を考慮することになります。がんが広がっている可能性のある腸管とリンパ節も切除するため、ある程度の範囲を一括で切除します。
 がんが周囲臓器にまで及んでいる場合でも、可能であればその臓器も一緒に切除します。その後、残った腸管をつなぎ合わせるのですが、肛門に近い直腸がんの場合、人工肛門をお腹に作ることもあります。極端に進行していて切除できない場合、抗がん剤や放射線治療などを考慮しますが、この場合でも便の通過障害や出血のコントロール目的として、迂回路を作る手術(バイパス手術)や人工肛門を作る手術を行うことがあります。人工肛門は多くの人が不安を感じられますが、排泄時や触れた際に痛みを感じることはありません。手術後に看護師とともに便の破棄の方法や、ケアの方法を練習します。それらを習得すれば、外出、入浴など通常の生活を送ることができます。

腹腔鏡下手術

 大腸がんは発生率の高さのせいで死亡数も多くなっていますが、日本人の5年生存率は約70%(2006〜2008年診断例)と、がん全体の中で見ても極端に悪い訳では無いです。中でもリンパ節転移や他臓器転移が無い状態で切除できた場合は9割前後の成績があります。早期発見、早期治療のために検診を受けること、また、もし要精密検査となってもその時点で大腸内視鏡検査に進むことが第一歩です。「なったら怖い病気」に違いありませんが、それよりも「なっているかもしれないのに放置すること」の方が怖い病気と思って頂ければ幸いです。ご自身や家族のためにも第一歩を進めてください。