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知って得する病気の話 麻酔について(麻酔科)

[2020年8月4日]

ID:573

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知って得する病気の話

麻酔について

古野雅恵(麻酔科)

【麻酔とは】
 手術や処置は、痛みや出血、その他のストレスを伴います。このストレスは、手術中だけの問題ではなく、手術後の回復にも影響を与えます。麻酔は、手術が安全に行えるように、手術によるストレスから患者さんの身体を守り、全身の状態を良好に維持することを最大の目的とした医療行為です。

手術室の様子


【麻酔の種類と実際】

〇全身麻酔
全身麻酔は、患者さんを痛みなどのストレスから守り、手術や検査を安全に行うために、痛みを取り、意識をなくし、身体を動かなくするものです。はじめに口と鼻をおおうマスクで酸素を吸入します。次に点滴から麻酔薬を注入し、意識がなくなると、マスクで人工呼吸を始めます。麻酔が十分に深くなったところで、気管に柔らかい呼吸用の管(気管チューブ)を入れ、この気管チューブを通じて人工呼吸を続けます。手術や患者さんの状態によって、気管チューブ以外の呼吸器具を用いることもあります。

 麻酔科医は、手術の刺激や患者さんの全身状態に応じて、輸液や輸血、薬剤の投与、呼吸の管理、体温の調節などを行い、手術を安全に進められるように患者さんの全身状態を維持します。手術が終了し、麻酔の必要がなくなると麻酔薬の投与を中止します。通常5〜10分程度で意識が回復します。患者さん自身で呼吸が十分に行えることや手をにぎるなどの簡単な指示に従えることを確認できたら、これらの器具を取ります。意識状態、血圧や脈拍、呼吸などが安定していることを確認し、病室に戻ります。


〇硬膜外麻酔
 脊髄のすぐ近くの硬膜外腔に局所麻酔薬を注入し、手術部位の痛みを和らげる麻酔です。背中から刺した針を通して硬膜外腔に細い管(カテーテル)を挿入し、麻酔薬をカテーテルから持続的に注入して、術後の痛みの治療に用います。全身麻酔と併用することがほとんどですが、カテーテル挿入の際に異常がないことを確認するため、全身麻酔の開始前にカテーテルを挿入させていただく場合が多いです。


〇脊髄くも膜下麻酔

 いわゆる下半身麻酔と呼ばれている麻酔です。細い針を使って腰の脊髄液が満たされている場所に局所麻酔薬を入れ、脊髄を麻痺させます。主に下半身の手術の麻酔に用いられます。この麻酔方法では意識がはっきりしている状態でも痛み無く手術を行えますが、緊張緩和のために鎮静(眠くなる薬剤を投与する)を併用することが多くなっています。


〇末梢神経ブロック
 神経の走行に沿って麻酔薬を注射し、その領域の痛みを取る方法です。麻酔の範囲は硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔より狭く、必要最小限にとどめられることが特徴です。末梢神経ブロックのみでも短時間の手術を行うことはできますが、通常は全身麻酔と併用して手術後の痛み止めに利用します。


【麻酔の合併症】
 
合併症は、麻酔を受ける全ての方に起こりうることです。術前診察や検査結果をふまえて、細心の注意をはらうことで、かなりの確率で予防することができます。しかし、医療行為である以上、100%の安全はあり得ません。合併症に際しては、常に最善の治療を行うよう心がけています。比較的頻度の高いものは以下の通りです。

〇 全ての麻酔に起こりうる合併症
《アレルギー》
 まれに麻酔や手術に使用する薬へのアレルギー反応により、じん麻疹が出たり、呼吸困難になったり、循環不全(ショック)になったりすることがあります。以前に特定の薬でアレルギー反応を起こされたことがある方、特定の物質や食物にアレルギーのある方はお知らせください。

《肺塞栓》
 血栓(血のかたまり)などが肺の血管につまると呼吸困難、胸痛、ときに心肺停止を引き起こすことがあります。これが肺塞栓症(エコノミークラス症候群)で、発生頻度は0.008〜0.04%程度ですが、一旦発症すると死亡率が10〜30%を超える危険な病気です。肺塞栓症の主な原因は、血流の停滞によって、足の静脈にできた血のかたまり(深部静脈血栓)が肺に流れてくることです。長期間寝たきりの状態、および一時的に動けない状態(手術中・後)はリスクが高く、手術後の深部静脈血栓の発生頻度は、10.8〜31.3%と報告されています。このため、手術中から手術後に肺塞栓症を防止するさまざまな予防法が実施されています。

〇全身麻酔の合併症
《歯が抜ける・欠ける》
呼吸のためのチューブやマスクを挿入する操作や、麻酔からさめるときに歯を食いしばることにより、グラグラした歯や義歯が損傷することがあります。

《喉の痛みやかすれ声》
気管チューブの影響で麻酔から覚めた後にのどの痛みを感じたり、かすれ声になったりする場合があります。時間とともによくなることがほとんどです。


〇硬膜外麻酔、脊髄くも膜下麻酔の合併症

《頭痛》
脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔の後に頭痛が起こることがあります。この頭痛は起き上がると頭痛が強くなり、横になると軽くなるという特徴があります。たいてい数日間の安静と輸液で改善しますが、まれに症状が持続し、入院期間が予定より延長することがあります。


 麻酔科医は術前診察・術前検査の結果から患者さん一人一人に最適な麻酔方法を選択し、手術という大きな侵襲から患者さんの身体を守ることに全力を注いでいます。麻酔方法に関してはご希望があれば医学的に可能な限り考慮させていただきます。ご質問やご希望があれば、ぜひ術前診察の際に担当麻酔科医にお知らせください。