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知って得する病気の話_大腿骨近位部骨折について(整形外科)

[2021年1月21日]

ID:521

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知って得する病気の話

大腿骨近位部骨折について

光石 直史(整形外科)

高齢になって骨粗鬆症になると若いころに比べて骨が弱くなっています。高齢者が転倒などの比較的軽い外力で受傷する骨折を脆弱性骨折といいます。

頻度が多く、骨折に伴う歩行能力の低下が起こる骨折として、大腿骨近位部骨折があります。以下は大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折について説明をします。


【骨折の部位】

脚の付け根の関節を股関節と言います。股関節はふとももの骨と骨盤とのつなぎ目の関節です。大腿骨の先端は、球形しているので骨頭と呼びます。そのすぐ下の細い部位を頚部(けいぶ)

と呼びます。
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【どうして高齢者に多いのか?】

交通外傷や転落事故などの大きな外力が加わった場合は若い人でも大腿骨近位部骨折を起こすことがありますが頻度は少ないです。高齢者の場合比較的軽微な外力で骨折を起こしてしまいます。原因としての一つは骨粗鬆症による骨の強度の低下が検討されます。骨折は転倒を原因とするもの以外におむつ交換の際に骨折をきたすケースもあります。

骨粗鬆症は女性に多い病気のため、大腿骨近位部骨折も高齢女性に好発し男性の約4倍程度です。

【頚部骨折と転子部骨折の違い】

ともに脚の付け根の骨折という意味では共通することが多いのですが骨折部位の解剖学的な形状の違いのために治療法と予後が大きく異なります。

股関節は関節包という袋で覆われており大腿骨頚部は、股関節包内にあるのに対し、転子部は股関節包外にあります、骨の表面には外骨膜があり、折れた骨が、癒合する際に重要な役割を果たします。ところが関節包内の骨折である大腿骨頚部骨折はこの外骨膜が存在しないため大腿骨転子部骨折に比べて非常に癒合しにくいという特徴があります。

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また大腿骨頭や大腿骨頚部は回旋動脈という細い動脈で栄養されています。骨折によりこの動脈が損傷を受けるケースが多く骨頭が血流障害をきたして壊死(大腿骨頭壊死症)に至るケースもあります。これに対して大腿骨転子部は、周囲の血行が比較的よく筋肉組織に囲まれているので、大腿骨頚部より骨癒合しやすい環境にあります。 


【治療について】

一般的に骨折の治療はギプスなどで骨折部を固定する保存的加療と手術的治療の2つに分かれます。麻酔管理法や手術方法が確立されてない時代には、保存治療がなされていました。骨がつくまでに長期の安静臥床を強いられ、そのため肺炎を生じたり、褥瘡(床ずれ)を発生させる原因になっていました。その上、頚部骨折では骨がつかないこと(偽関節)が多く、転子部骨折では骨はついても変形して癒合し、機能的には満足できるものではありませんでした。今日は、多くの大腿骨頚部、転子部骨折を手術的に治療することが可能になりました。そのため、全身状態が手術に耐えられると予想できる場合は積極的に手術加療をする方がメリットが多いと多くの整形外科医は考えています。


【手術方法について】

大腿骨頚部骨折 

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大きく分けて骨接合術と人工骨頭挿入術があります。

骨接合術は、骨折部を可能な限りもとに近い状態に整復したうえで金属のインプラントを使用して固定をすることです。
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人工骨頭挿入術は、骨をくっつける治療を選択せず、骨折した頚部から骨頭を切除してそこを人工物で代用する治療です
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それぞれに治療の利点、欠点について説明します。大腿骨頚部骨折に骨接合術を行うと、前述した偽関節、大腿骨頭壊死をという合併症が生じる危険があります。そのような合併症を生じた場合、初回の手術に使用した金属を除去して追加して人工骨頭挿入術を行う必要があります。初回の手術に人工骨頭挿入術を行うと前述の偽関節、大腿骨頭壊死がありませんが、関節脱臼を術後経過に生じることがあります。さらに長期的には挿入した人工骨頭が緩むことが原因で、再手術をしないといけないケースがあり耐久性の問題があります。どちらを選択するかについては、骨折が大きくずれている場合は人工骨頭挿入術、ずれが少ない場合は骨接合術をするケースが多いですが各々の患者様の特殊性(年齢、全身合併症など)を考慮して最終決定をしています。


【大腿骨転子部骨折】

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一般的には骨接合術が行われます。ラグスクリュー機構をもつプレート固定や、大腿骨の内部に留置して骨折部を支える髄内釘(ずいないてい)というインプラントを使用した手術が標準的です。
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頚部骨折に比べて骨癒合しやすいという特徴がありますが、骨粗鬆症が強いケース、骨折部の粉砕が強いケースでは、骨がつくまでインプラントが骨折を支えきれず偽関節になるケースが存在します。その場合は何らかの再手術が必要になります。


【術後のリハビリテーションについて】

術後のリハビリテーションは(1)座位保持訓練(2)車いすへの移乗(3)立位保持訓練(4)平行棒内歩行(5)歩行器歩行訓練(6)松葉杖歩行訓練(7)杖歩行のように進めていきます。骨折した骨に隣接する関節の運動訓練や筋力訓練も並行して行います。治療の過程に大変重要なリハビリテーションですが、必要十分なリハビリの期間を確保するために当院では近隣病院と提携して術後リハビリを継続して行えるような地域連携を行っています。