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知って得する病気の話_本当に治療が必要な患者さんへのカテーテル治療(循環器内科)

[2018年4月24日]

ID:397

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知って得する病気の話

本当に治療が必要な患者さんへのカテーテル治療

下司 透(循環器内科)

はじめに

当院では狭心症を代表とする虚血性心疾患の治療に対して、年間300件程度のカテーテル手術を行っており、その大半に冠動脈ステント(金属の網目の筒)を留置し、良好な治療成績を得ています。しかし、ステント留置後は原則1年間の二剤併用の抗血小板療法(血をサラサラにしておく薬)が必要とされており、これに伴い脳出血や消化管出血をはじめとする出血性合併症のリスクが増加します。さらに金属異物を血管内に留置することにより、かえって血が固まりやすくなる致死率の高いステント血栓症の問題もまだ解決されていません。

このように冠動脈ステント留置はそれ自体が一定のリスクをもたらすため、必要のないステント留置は避けなければなりません。それ故、中等度狭窄(高度狭窄ではない微妙な狭窄)に対するカテーテル治療の適応決定には冠動脈の生理的虚血評価(本当に心臓の筋肉に血の巡りが悪いかどうか)が特に重要視されています。この虚血診断は血管造影検査のみでは正確に評価できないので、当院では運動負荷心電図、心筋血流シンチグラフィー検査とプレッシャーワイヤーを用いた冠血流予備量比(fractional flow reserve: FFR)測定などを行っています。

冠血流予備量比(FFR)とは?

FFRはプレッシャーワイヤーを冠動脈内に挿入して末梢の微小血管を十分拡張した状態で測定されます。冠動脈の狭窄遠位部圧と狭窄近位部圧の比がFFRであり、狭窄がなければFFR=1.0となります。非侵襲的検査との対比により、FFRが0.75未満であると虚血あり(血の巡りが悪い)と診断されます(図1)。

2009年に発表されたFAME試験では、中程度の冠動脈狭窄に対し、FFRを測定し0.80以下であればカテーテル治療(PCI)を施行する群と血管造影検査のみで狭窄があればPCIを施行する群とで主要心事故の発生率を比較しており、血管造影検査のみでPCIを行った群では、有意に心事故(心筋梗塞や再治療など)発生率が高率であるとの結果が報告されています(図2)。

これは血管造影のみでPCIを行う群の中に狭窄が有意でない(血の巡りが悪くない)にも関わらず「過剰な」手術治療がされた症例が含まれていることが原因と考えられます。またFFRの値に基づいてPCIを行った群では使用ステント数が有意に少なく、医療コストも有意に低価格であったと報告されています。つまり、血管造影検査のみで判断するのではなく、FFRの値に基づいて本当に血の巡りの悪い血管に行った治療が主要心事故を減らすことができ、さらに医療コストの面でも有用と考えられています。

冠血流予備量比
慢性便秘症患者に行う問診項目

当院でのFFR測定症例の実際

当院で2016年は53症例の中等度狭窄に対してFFRの測定を行いました。そのうち30例(57%)の症例でFFRが0.80より大きい値でした。つまり、これらの患者さんは原則としてカテーテル治療を行う必要がありませんので、1例を除いて薬物療法のみで経過をみていますが、全例1年以上経過しても心筋梗塞や狭心症再燃などの心血管イベントは認めていません(図3)。

図4は狭心症患者さんの冠動脈造影の写真で、右冠動脈の矢印部に高度狭窄を認めます。プレッシャーワイヤーを引き抜くと、狭窄の部位で急激に血圧が上昇しているのがわかります。すなわち、この部位は狭窄により大きな血流変化を生じる部位であり、ステント留置などの血行再建がより有用であろうことが予想されます(点の数が多いところほど、血圧の変化が大きいことを示します)。

2016年の当院でのFFR施行症例
プレッシャーワイヤーの引き抜き圧評価

右冠動脈の中にプレッシャーワイヤーを挿入して、血管内の血圧を測定している様子

最後に

虚血性心疾患に対するカテーテルインターベンション治療は昔と比較して道具も改良されて非常に安全に施行できるようになりましたが、同時に高額な医療費がかかることも昨今は問題視されています。当院ではこのような虚血診断検査も参考にして、患者さんの冠動脈硬化病変がカテーテル治療対象として妥当かどうかを的確に判断し、「本当に治療が必要な部位」に対してのみPCI治療を行うことで、患者さんがより安全で長く健康を保てる治療法を選択するように心掛けています。