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知って得する病気の話_便秘症について(消化器内科)

[2018年4月24日]

ID:396

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知って得する病気の話

便秘症について

森田 幸弘(消化器内科)

 皆さんの中で普段から便秘でお困りの方は多いと思います。厚生労働省の平成25年国民生活基礎調査によると便秘の訴えのある方は2~5%程度と報告されています。便秘症は60歳未満では女性に多いと言われていますが、60歳を超えると特に男性の数が増えてきます。今や高齢化社会を迎えて便秘症の患者さんは男女ともに増加の一途をたどっています(図1)。当院の外来でも「便が数日でない」や「便を出したくても、少ししか出ない」、「便はでているが、すっきりしない」などと訴えはさまざまです。慢性的な便秘症は生活の質を低下させ、さまざまな病気を合併するためしっかり治療することが必要です。今回はそういった便秘症でお困りの方に少しでも知識を深めていただけるように、便秘症の原因から治療までお話ししたいと思います。

日本における便秘症の有病率

【便秘症とは】

 では便秘とはいったいどのような状態のことを言うのでしょうか?日本消化器病学会のホームページには「便秘とは、排便回数や便量が減ること」とされていますが、自覚症状には個人差があることから客観的に定義することは困難と考えられています。一般的には「排便回数の減少、かつ/または排便困難感を呈する病気」と考えると理解しやすいと思います。排便回数の減少とは週3回未満の排便回数と定義されます。また排便困難感とは排便時に強いいきみが必要な状態や排便時の腹痛、残便感などがある状態をいいます。これらの主観的な自覚症状の他に、客観的な問診を行う事が重要と考えています。そこで便秘症状を訴える患者さんには図2や図3に示しているような情報を問診で確認していき、便秘症の原因について分類していきます。

 

慢性便秘症患者に行う問診項目
図3

【便秘症の原因】

 便秘症には大きく原発性便秘症と続発性便秘症に分類することができます(図4)。原発性便秘症とは腸の動きや機能に問題がある便秘症のことを指し、最も多い便秘症です。一方続発性便秘症は原因となる病気が存在している場合の便秘症のことを指します。便秘症診療において最も大切なことは、器質性便秘症としての大腸癌や炎症性腸疾患、虚血性腸炎といった大腸に狭窄を伴う病気を鑑別することです。これらの病気を鑑別するには大腸内視鏡検査が必要になってきますが、高齢者の方や自力で動くことが難しい方に対しては全例で体に負担となるような検査を行う事は現実的に困難な場合があります。そのような場合は腹部CT検査で大きな病変がないかどうかを確認することがあります。しかし(1)発熱や体重減少を認める、(2)排便習慣の急激な変化がある、(3)出血を伴う、(4)50歳以上、(5)大腸癌の家系であるなどの、いわゆるalarm signが認められた場合は、積極的に精査を勧めていくことが重要と考えています。

便秘症の分類

【便秘症の治療】

 便秘症の治療においては薬物治療の前に生活習慣の改善が重要です。ポイントは「食生活、特に水分摂取と食物繊維摂取」「排便姿勢」「運動」の3点と言われています。特に高齢の方では食事摂取量や水分摂取量が減っているので、積極的な摂取が望まれます。食物繊維は多くの方で極端に不足しており、1日20g以上を目安に摂取するのがよいとされています。次に排便姿勢は特に重要とされています。新聞や雑誌を読むときの様な直立姿勢は排便には不適切であり、前傾姿勢が適した姿勢と言われています。最近はあまり見かけませんが和式トイレは排便には非常に理想的な姿勢とされています。運動に関しては毎日のウォーキングが便秘予防に有効とされています。定期的なウォーキングやランニング、筋肉トレーニングは便秘症に効果的です。これらの生活習慣の見直しで改善しない場合は便秘治療薬(図5)を用います。代表的なものとして便中の水分量を増加させ、便を柔らかくして大腸通過時間を短くし排便を容易にすることを目的とした「緩下薬」と大腸を刺激し腸管の蠕動運動を引き起こし、排便を促進させることを目的とした「大腸刺激性下剤」があります。その他には漢方薬や消化管機能改善薬、整腸剤などを用いることもあります。薬物治療の基本は便形状の正常化のために緩下薬を毎日内服して、必要に応じて大腸刺激性下剤を頓服で使用していくことが良いと思います。
便秘治療薬の種類
図5

【下剤の副作用】

 しかし下剤を始めるとそれに依存してしまい、長期に飲み続けてしまうことがあります。そこで問題となってくるのが下剤の副作用です。緩下薬は比較的安全とされていますが、高齢者や腎臓の機能が悪い方、心臓の機能が悪い方では高マグネシウム血症といって体の中の電解質のバランスが崩れることで嘔吐や徐脈、筋力低下などの副作用が現れることがあり注意が必要です。大腸刺激性下剤は長期に使用した場合には耐性や習慣性といった副作用が出現することがあります。また腸管の過剰な蠕動運動を引き起こし、それによって強い腹痛や下痢といった症状が起こることもあります。さらに大腸の粘膜が黒くなる大腸メラノーシス(図5)という状態につながることもあり、長期使用は注意が必要です。

【最後に】

 今回は身近な病気である便秘症について解説しました。便秘で悩んでいる方のほとんどが心配のない便秘ですが、中には放置しておくと重篤な疾患につながる病気が隠れていることもあります。排便習慣で少しでもおかしいと感じることがあれば、医師に相談していただければと思います。