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知って得する病気の話_急性虫垂炎とは(外科)

[2017年12月14日]

ID:357

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知って得する病気の話

急性虫垂炎とは

川部 篤(外科)

【はじめに】

 我々、消化器外科が扱う疾患の中で緊急手術を必要とする頻度も多い急性腹症(お腹が痛くなり速やかに診断、治療を要する病気)の一つです。みなさんがよく「盲腸になった」、「盲腸で手術を受けた」と表現されている病気の正式な名称が急性虫垂炎です。

【虫垂とは】

 お腹の中の右下あたりにある大腸の初めの部分を盲腸といいますがその下部から出る細い管状の突起した部分を虫垂といいます。この虫垂の内部に細菌が感染して炎症を起こした状態が急性虫垂炎です。もっとも多く発症するのが10~20歳代ですが、幼児や高齢者で発症される方もおられます。 

虫垂の図

【急性虫垂炎の原因】

 虫垂の内腔は盲腸とつながっていますが、その先端は行き止まりになっています。虫垂の内腔が何らかの原因で詰まることにより2次的に細菌の感染をきたすと考えらえていますが、詳しいことは実はまだ解明されていません。

【急性虫垂炎の症状】

 初期にはみぞおちや臍の周りの痛みや悪心、嘔吐、食欲の低下等の症状が多く見られます。それから数時間後に病状が進行して炎症が強くなると虫垂のある右下腹部の強い痛みとなる場合が多く、このように病状の進行によって痛みの場所が移動するのが虫垂炎の特徴です。(ただしこのような典型的な痛みの経過をとらない場合もあります)

 進行した虫垂炎では歩いたりして身体に振動が加わることでも右下腹部に痛みが響くようになり、この場所の腹筋が緊張してお腹が固くなります。これは虫垂内部から始まった細菌感染による炎症が虫垂周囲の腹膜にまで及んだ腹膜炎ために出る症状で腹膜刺激症状といいます。このころから発熱をきたすことも多く見られます。さらに病状が進行し、虫垂が破れて(穿孔といいます)内部にたまった膿がお腹の中に広がると腹部全体の非常に強い痛みとなり、いわゆる汎発性腹膜炎という生命にかかわるような重篤な状態に陥ります。

症状のイラスト

【急性虫垂炎の診断は】

 発症初期では前述のようにみぞおちや臍周囲の症状として現れることが多いので、この時点で虫垂炎の診断を付けることは難しいことがあります。腹痛で病院に受診され医師による問診、腹部の診察等にて前述の症状が認められ急性虫垂炎が疑われた場合血液検査で炎症の程度を数値で評価したり、腹部の超音波検査やCT検査等で虫垂の大きさや内部、周囲に膿のたまりがないかどうか、周囲への炎症のおよび具合を評価します。その結果をふまえたうえで、治療の方針を決めます。特に小児の虫垂炎は大人と比べて訴えが不確実で診断が遅れがちです。また小児では虫垂の壁が薄いため穿孔しやすく、容易に腹膜炎を併発しますので注意が必要です。

【急性虫垂炎の治療】

内科的治療と外科的治療に分かれます。

  • 内科的治療 

     炎症が軽度の場合、基本的には入院のうえ腸の病気ですからその安静を保つために食事をひかえます。水分と栄養は輸液(点滴)により投与することになります。そして虫垂に感染した細菌に対して抗生物質(細菌を殺す薬剤)の点滴を1日に2~3回定期的に投与して治療します。治療効果が現れ、炎症の所見が軽くなってくればそのまま症状が治まるまで治療を継続します。おおむね5日から10日程度の入院を要します。ただし抗生物質の効果が十分にでなかったり、逆に悪くなっていくようであれば外科的治療(手術)が必要となる場合もあります。また一旦症状が治まっても、虫垂は残っているわけですから退院後に症状が再発する可能性はありその頻度は20%程度との報告があります。

内科的治療のイラスト
  • 外科的治療
     内科的治療によって回復しない場合や、虫垂の周囲に膿のたまった状態、穿孔をきたした状態であればその時点で緊急手術となります。またそのような状態でなくても腹膜刺激症状、炎症の所見が強い場合や、虫垂の内部に便が固まってできる糞石が詰まっている状態では穿孔の危険が高いので手術となります。手術では炎症を起こした虫垂を切除します。  
    1. 開腹手術

      古くから行われている方法で、右下腹部を5cm前後切開して虫垂を創の外に引き出しながら切除する方法です。虫垂炎の状態によっては安全に手術できるように創をさらに延長することもあります。

開腹手術のイラスト

                  2. 腹腔鏡手術                    

          臍と左下腹部に1~3個所開けた穴を通して腹腔内を映し出すカメラと専用の手術道具を挿入して行う手術です。開腹手術に

         比べて創が小さく、手術自体が患者さんに及ぼすダメージが少ないのが特徴です。現在ではほとんどの急性虫垂炎に対して

         腹腔鏡手術で施行しています。ただし虫垂の状態によっては開腹手術に移行することもまれにあります。

腹腔鏡手術のイラスト

 いずれの手術方法であっても虫垂の外に膿が認められた場合は排液管(ドレン)という管を留置することがあります。


【手術後の経過】

 虫垂炎の程度によりますが、順調に経過した場合4~7日程度で退院となります。ただし、何らかの術後合併症(創が膿んだとか)をきたした場合はそれが治まるまで入院が長引くこととなります。

【さいごに】

 急性虫垂炎は時間とともに症状が重くなります。このためにできるだけ早期に受診することが大事です。しかし初期の場合は医療機関を受診しても腹痛の原因がはっきりしないこともあります。したがって一度受診した後でも、症状が治まらないか悪くなるようであれば休日、夜間でも我慢せずに再度受診するようにしてください。