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知って得する病気の話_人工膝・股関節置換術について(整形外科)

[2019年11月22日]

ID:299

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知って得する病気の話

人工膝・股関節置換術について

角田 恒(整形外科)

【はじめに】

 日本人の平均寿命は現在、男性は八十一歳、女性は八十七歳と世界でも有数の長寿国となっています。寿命が長くなればなるほど二足歩行をする我々の股関節や膝関節が痛んでくるのは致し方ないことかもしれません。しかしながら「年を取ったからあきらめる」のではなく、いつまでも日常生活動作を自分の力、自分の脚で行うことを目指し治療していくのが我々整形外科医の努めであります。今回は年齢やケガにより変形した股関節・膝関節の機能を改善する治療法である人工関節置換術についてお話させていただきます。

【人工関節置換術ってどんな手術?】

 人の関節はスムースな運動を行うため、その表面は軟骨で覆われています。その軟骨、関節構造のおかげで人はさまざまな運動が可能となっています。しかしながら、先にも述べたように、人間特有の二足歩行を行うことで体重を支える背骨や脚の関節は必然的に加齢に伴う変形を来すこととなります。これまでも今現在もさまざまな研究がなされ、軟骨を再生するような治療法が検討されていますが、現状では薬を飲む、注射をするなど、どなたでも手軽に受けていただけるような治療法がないのが現実です。平均寿命は延び、関節軟骨の有効な再生方法がない中で進化してきたのが人工関節置換術です。先進国の平均寿命が七十歳を超えてきた1970年代以降、人工関節自体の発展(金属インプラントの固定性の向上・材料の耐久性の向上など)に加え手術手技が向上したことにより飛躍的に世界に広がることとなったのです。

ものづくり大国日本でも、当然のごとくさまざまな研究がなされ日本人に合った人工関節が検討され発展してきました。また宮大工のように何百年とその姿と機能を保つ建物を作る日本人特有の技術と気質により、世界に誇る人工関節置換術の長期成績をおさめてきています。

 さて、人工関節の構造ですが、関節は複数の骨とその間にある軟骨を中心としたクッションの役割を果たすもので構成されています。したがって人工関節も股関節(図1)、膝関節(図2)ともに削った骨の部分にチタン合金のインプラントを固定し、その間に人工の軟骨部分を設置することとなります。人それぞれ骨の形状やサイズが異なるため、手術前にX線やCT撮影を行い綿密な計画をし、その計画をもとに最終的には手術中の判断により患者さんにとって最適なサイズ、設置を決定します。

人工股関節のしくみの図
人口膝関節の仕組みの図

【人工関節置換術の適応】

 人工関節置換術の適応ですが、まずは関節痛の程度が重要です。内服、注射などの治療(保存的治療)でも痛みがとれず、日常生活動作に支障をきたすようであれば手術治療の検討が必要となります。その上で、画像上、軟骨がすり減ってしまっている進行期~末期の関節症性変化(図3)を来している場合が人工関節の適応となります。軟骨が残っているような場合は自分の骨を温存した関節鏡手術や骨切り術を検討します。最終的には痛み、画像検査結果に加え、患者さんの年齢、生活状態、既往症(治療している病気の状態)など患者さんの取り巻く環境を総合的に判断し治療方針を決定します。

【合併症と対策】

 手術の合併症としては感染(バイ菌)、出血、脱臼、血栓症などが挙げられます。バイ菌対策ですが、当院では人工関節置換術は他の手術よりも清潔度の高い部屋で特殊な手術着(図4)を着て行います。

 また、術後に口腔疾患(歯周炎など)からの感染が報告されているため、術前から当院口腔外科やかかりつけ歯科での検診を行い予防に努めています。出血については手術前に自分の血を貯めること(貯血)を積極的に行い、ほとんどの場合、他人からの輸血を必要とせず治療を終えています。脱臼についてはまずは、患者さんに合ったインプラントの設置を正確に行うことが重要であり、先にも述べたように術前画像を利用し三次元的な計画を行い、手術を遂行しています。また術後リハビリスタッフが日常生活動作に即した指導を患者さんに行うことで予防しております。血栓症に対しては血栓予防の薬を使用することも重要ですが、できる限り早期にベッドから離れ、歩行訓練を開始することが重要であり、現在は手術後1~2日でリハビリを進めています

特殊な手術着の画像

まとめ】

 テレビや広告などでは、軟骨が再生し変形した関節が戻るような誤解を招く商品の宣伝がなされ、また、その中で人工関節があたかも数年しか持たないような治療であると伝えたりしています。手術治療、人工関節はあくまで最終的な治療法であることは確かですが、我々は歩けなくなるまで弱ってしまった筋力を元に戻して差し上げることはできず、誤った情報により患者さんが適切な時期に最適な治療を受けられなくなることは防がなくてはなりません。今回のお話が、読んでいただいた方々、その御家族や御友人の参考になれば幸いです。