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脳神経外科の特長とその取組4

[2017年8月16日]

ID:298

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脳神経外科の特長とその取組4

頭部、脊髄、脊髄外傷に対する取組

脳神経外科 医長   村田大樹

外傷に対する脳神経外科の役割

 脳神経外科が治療を行う外傷には、頭部、脊椎、脊髄の外傷があります。脳神経外科の外来には、「頭を打ったので心配で・・」と受診される患者さんが多くいらっしゃいますが、実際に手術加療まで必要となる患者さんはほとんどおられません。では、どのような場合に脳や脊髄の損傷があると疑えばよいでしょうか。最も大事なことは、意識がしっかりしているかどうか、です。意識がしっかりしていれば、少なくとも命に関わるような重大な損傷を生じている可能性は低いと言えます。しかし、意識消失(一時的)、頻(ひん)回(かい)の嘔吐、強い頭痛、手足の麻痺、言語障害などの症状を認める場合には、脳や脊髄に損傷をきたしている可能性があるため、医療機関を受診する必要があります。脳や脊髄に損傷が加わった場合、重篤な後遺症を生じ、時に生命に危険が及ぶところまで発展することがあります。我々脳神経外科医は、外傷による脳、脊髄の損傷を手術によって最小限に食い止める役割を担っています。では、実際に脳、脊椎、脊髄に損傷が生じた場合に脳神経外科がどのような治療を行っているかについて、お話させて頂きます。

頭部の外傷

 交通事故や転落事故などで頭部に衝撃を受けた場合、皮膚に傷ができます。衝撃が強ければ頭蓋骨、脳実質(頭蓋内)にまで衝撃が加わります。頭蓋内の損傷の種類には、脳への直接的な損傷(脳挫傷、外傷性脳出血)、頭蓋内血管の損傷(外傷性くも膜下出血、急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫、慢性硬膜下血腫)、回転性の外力による軸索(じくさく)の断裂(びまん性軸索損傷)、などがあります。これらの病態が複合して生じる場合もありますし、頭部のみならず全身の骨や内臓の外傷を合併している場合もあります。

 頭部外傷では、搬送時の症状(意識障害や神経学的な異常所見)が重篤であればあるほど回復の見込みが低いことが分かっています。しかし病状によっては、迅速に手術加療を行うことで、重篤な症状で搬送された患者さんが歩いて帰ることができる場合もあります。

 頭部外傷の治療

 頭部外傷によって脳実質が損傷した場合、手術を行っても残念ながら損傷した脳の機能を回復することはできません。脳神経外科の役割は、脳実質の損傷や出血によって起こる脳圧の上昇や脳への圧迫が「正常な脳組織に及ぼす二次的な損傷を防ぐ」ことにあります。具体的には、頭蓋骨を一時的に外して圧を逃がす手術(外減圧術)や、頭蓋内出血を除去する手術(開頭血腫除去術)などがあります。

 手術後は、脳損傷によって生じた後遺症をできる限り改善するためリハビリテーションを行います。

 当院では、外傷で救急搬送された患者さんに頭蓋内出血を生じていることが確認された場合、救急外来で血腫近くの頭蓋骨に穴を開け血腫を可能な限り除去し、脳圧を下げる処置を行なっています。この処置によって、一刻も早く脳への圧迫を軽減し、救命、機能予後の改善を目指した治療に取り組んでいます。

 また、頭部打撲直後は無症状でCTでも異常がなかった患者さんが、1~2か月くらい経過してから頭蓋内に血が溜まり手足の麻痺や歩行障害などの症状が出てくる場合があります。

これは慢性硬膜下血腫と呼ばれる、特に高齢者の方に多い疾患です。治療は、頭蓋骨に一ヶ所、穴を開けて中の血液を取り除く手術を行います。
血腫の画像
急性硬膜下血腫の手術の画像
慢性硬膜下血腫の画像

脊椎脊髄の外傷

 脊椎は、我々人間が二足歩行を行う上で身体の支柱となる重要な骨で、一般的に背骨と呼ばれるものです。脊椎は頸椎、胸椎、腰椎、仙骨の4つの部分に分けられ、その骨の中には脊髄(頸髄、胸髄、腰髄、仙(せん)髄(ずい)、馬(ば)尾(び))と呼ばれる神経の束が通っています。脊髄は主に、脳からの運動の命令を手足に伝えたり、手足の感覚を脳に伝えたりする働きがあります。

 脊椎の外傷とは、骨折を始めとした骨の損傷を指し、脊髄の外傷とは、その内部の脊髄、神経の損傷を指します。脊髄の損傷は、直接的に衝撃が加わり,生じる場合と、脊椎の過(か)屈曲(くっきょく)、過伸展によって生じる場合があります。

 脊髄を損傷するとどのような症状が出るのでしょうか。外傷で救急搬送された患者さんが、意識はしっかりしている(脳の損傷の可能性が低い)のに手足の麻痺や感覚障害を認めている場合、脊髄損傷の可能性を考えなければなりません。損傷部位によって症状は多彩ですが、特に重症となるのが頸髄損傷です。

 頸髄は四肢の運動の神経線維(せんい)が通っているだけでなく、呼吸に必要な筋肉を動かす神経細胞も存在しているため、呼吸障害を生じ,生命に危険が及ぶことがあります。
頸椎脱臼骨折+脊髄損傷の画像

脊椎脊髄外傷の治療

 脊椎、脊髄の外傷では骨の治療と神経の治療を行う必要があります。脊椎(骨)が損傷し位置がずれてしまっているような場合には、手術で骨の位置を整復しスクリュー(ねじ)で固定する手術を行います。脳と同様、損傷を受けてしまった脊髄の機能を完全に回復することはできないため、脊椎の不安定性や二次的な脊髄損傷を予防するために手術を行います。

 当院では、脊椎、脊髄損傷の患者さんが来院された場合には整形外科、脳神経外科いずれかの医師が対応にあたります。脊椎脊髄の病気と聞くと整形外科の先生が治療されているイメージを持たれる方も多いと思いますが、脳神経外科でも脊椎、脊髄の手術を行なっています。ただ、脊椎外科の分野においては整形外科の医師の経験から学ぶ点は多く、当院では脊椎脊髄手術の際に整形外科の医師と協力して治療を行ない、よりよい手術が提供できるような体制をとっています。

脊椎脊髄外傷の手術の術前、術後

まとめ

 外傷は、普段の生活の中でいつ自分の身に起こるか予測はできません。脳、脊髄は損傷を受けてしまうとその後の生活の質が著しく低下してしまう可能性があります。外傷に対する脳神経外科医の役割は、不運にも脳、脊髄に外傷を負ってしまった患者さんに対して、いかに迅速に生命、機能を改善する治療を提供できるかということになります。

 冒頭で述べたように、意識がしっかりしていて、手足が動いて、会話が問題なければ、過度の心配をする必要はありません。しかし、時間が経過してから病状が変化する場合もあるため、外傷後に何か異変を感じた際にはすぐに脳神経外科を受診するようにしてください。

 また、外傷を負わないために、ご自身の身の安全にも十分にご注意ください。


※1 びまん性軸索損傷

 頭部外傷のうち、受傷直後から6時間を超えた意識消失がある損傷

※2 脳実質

 「脳そのもの」の事