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脳神経外科の特長とその取組3

[2017年8月22日]

ID:297

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脳神経外科の特長とその取組3

脳腫瘍・脊髄腫瘍に対する取組について

脳神経外科 部長   中久木卓也

脳腫瘍脊髄腫瘍とは

 脳腫瘍・脊髄腫瘍と聞いてみなさん、どんな病気を思いうかべられますか? 脳みそに何か“できもの”がある、といった程度の認識が一般的ではないでしょうか。体の他の部分のできもの(悪性のできものの代表はガン)に比べると頻度は非常に少なく、あまり馴染みがないかもしれません。新規に発症する原発性脳腫瘍の頻度は年間人口10万人あたり約10人で胃がん、肺がんが約200人発症しているのと比べるとかなり少ないですね。

 脳腫瘍、脊髄腫瘍は脳と脊髄を構成するいろんな組織(脳、脊髄、脳を包む膜など)から発生するできもの総称です。通常は悪性でもガンとは言わず、腫瘍と言います。ガンと違って脳以外の部位に転移することは非常に稀で同じ場所で再発を起こすことがほとんどです。良性と悪性のものがありますが、良性のものは、ゆっくりと正常脳を圧迫して大きくなり、再発も少ないです。一方で悪性のものは、大きくなるのも早く、じわじわと正常の脳の中に入り込んでいくような進展をしていきます。再発も多くみられます。


代表的な脳腫瘍の種類の説明

脊髄腫瘍種類と予後

 脳腫瘍は原発性(脳および脳周囲組織から発生)と転移性(体の違う場所のガンが脳に転移したもの)に分けれられます。また腫瘍の予後(治療のしやすさ)によって悪性と良性に分けられます。表のようにさまざまな脳腫瘍がありますが、名称が難しく少し分かりにくいかもしれません。中でも代表的な悪性脳腫瘍の神経膠腫(こうしゅ)(グリオーマとも言います)は、脳の中から発生し、じわじわと脳の中に広がっていきます。比較的おとなしい星細胞腫(せいさいぼうしゅ)から他のガンと比べても非常にタチの悪い膠芽腫(こうがしゅ)まで性格はさまざまです。一方で良性脳腫瘍の代表が、脳を包む膜(髄膜)から発生する髄膜腫で写真のように脳との境界も明瞭で、ゆっくりと大きくなっていきます。

脳・脊髄腫瘍症状

 脳腫瘍の症状は種類、場所、大きさによって異なっており、頭蓋内圧(ないあつ)亢進(こうしん)症状と、脳の機能に応じた局所症状に分けられます。頭蓋内圧亢進症状の代表的なものは頭痛です。脳腫瘍による頭痛は、朝起きた時に起こることが特徴的と言われています。脳にはさまざまな機能が分散して存在しています。腫瘍の発生した部位(局所)によって症状(局所症状)が起こります。例えば、半身麻痺、しびれ、めまい、ろれつ障害、痙攣(けいれん)など障害される部位に応じ多彩です。 

 しかし一見脳の病気と関係がない症状で起こる場合もあります。例えば難聴(神経鞘腫(しょうしゅ))、視力視野障害(下垂体腺腫)、不妊、月経異常(下垂体腺腫)など他科で検査してみつかるものもあります。脊髄にできる腫瘍は、脳腫瘍よりもっと稀です。症状は手足のしびれ、痛み、運動障害、膀胱直腸障害(おしっこがでにくい、排便がしにくい)などがあります。

脳・脊髄腫瘍治療

 治療は、できものなので、一番は取ってしまうこと、でも簡単に取れる物ばかりではありません。良性のものは手術で取りきることができれば再発も少なく治すことができますが、悪性のものは正常脳の中に潜り込んでおり、これを全て取りきることは難しいです。胃がんのように正常の胃までまるごと手術で取ってしまうことは脳腫瘍ではできないからです。腫瘍を取る代表的な手術法に開頭術があります。手順はまず頭の皮膚を切開して次に頭蓋骨を外し、さらに脳を包む膜(硬膜)を開けると脳の表面が見えてきます。そして脳の大事な部分を痛めないように顕微鏡で細かいところを観察しながら腫瘍の部分を摘出していきます。体の他の部分にあるできものと違って、周りは大事な脳みそなので時間をかけてミリ単位で作業していくので当然時間もかかります。境界が曖昧な腫瘍であればどこまで取るべきか悩むこともあります。たくさん摘出すればするほど周囲の機能の悪化、すなわち意識が悪くなったり、手足が麻痺(まひ)したりする危険性が高くなるし、一方で機能を温存するために腫瘍をあまり取らずに残してしまうと再発する可能性が高くなります。腫瘍の種類、部位、患者さんの年齢などを総合的に判断するしかありません。

 開頭手術を安全に行うための工夫としては、ナビゲーション、術中蛍光造影、覚醒下手術なども症例に応じて行っています。頭を開ける以外の手術法としては、下垂体腫瘍における経鼻内視鏡手術があります。これは文字通り鼻の穴から内視鏡を入れて腫瘍に到達する方法であり、大部分の下垂体腫瘍はこれで手術ができますし、最近では部位によっては髄膜腫でも行っています。開頭術に比べ傷が小さく体に対する負担は少ない手術です。

髄膜腫の画像
下垂体腺腫の説明

手術以外の治療法

 手術以外の治療法として放射線治療と化学療法(抗がん剤)があります。残った腫瘍をこれらで追加治療することが可能な場合は、手術で無理せずに機能を悪化させないようにして追加治療にゆだねるのが良いでしょう。抗がん剤は以前は注射しかなく副作用も強かったのが、内服のものが使えるようになりました。

 放射線治療は脳全体に放射線をあてる方法と腫瘍の部分にのみ放射線をあてる方法があります。腫瘍の性質、数、大きさに応じて使い分けています。通常の放射線治療は当院でも可能ですが、腫瘍の部分にだけ放射線をあてる方法(有名なものはガンマナイフ)は他の病院に紹介して治療していただいています。

神経鞘腫の画像

まとめ

 良性のものであれば適切な手術をすることで治ることが期待できます。しかし悪性のものは手術のみでは治らず、他の方法を追加しても残念ながら30年前と比べても治療成績はあまり変わっていません。

 脳腫瘍もガンと同じで早期発見することが大事です。頻度は前述したように稀で、例えば頭痛がある人を調べてもほんの一握りで見つかる程度です。しかし進行してかなり大きくなってしまって症状も強くなると治療をしても後遺症が残る可能性が高くなります。

 前述の症状を参考に、脳神経外科を受診されたり、脳ドックを受けることで少しでも早く発見できるとよいでしょう。もし見つかった場合、種類、部位、大きさに応じた適切な治療のお手伝いをさせていただければと思います。