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脳神経外科の特長とその取組1

[2017年8月1日]

ID:290

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脳神経外科の特長とその取組1

彦根市立病院脳神経外科の診療スタンスについて

脳神経外科 部長(統括)   井坂 文章

脳神経外科とは

そもそも脳神経外科とは一体、どんな病気を診ている科なのでしょうか?日本脳神経外科学会のホームページによると、日本における「脳神経外科」の定義は、「脳、脊髄、末梢神経系およびその付属器官(血管、骨、筋肉など)を含めた神経系全般の疾患のなかで、主に外科的治療の対象となりうる疾患について診断、治療を行う医療の1分野」とされています。極めて単純に言うと、脳神経外科は「脳と神経」の外科で、脳とそれに接続する脊髄および末梢神経の異常を「手術によって」治療を試みる分野となります。

脳神経外科は、昭和40年以降、神経科学の発展と技術革新の両輪を推進力として飛躍的に進歩し、その結果、脳腫瘍・脳神経外傷・脳卒中・てんかん・不随意運動・脊髄等の多くの専門分野が分化し、その各々の分野において基礎医学から社会・臨床医学まで広い守備範囲でもって、社会に貢献してきたわけです。そして、そのカッティングエッヂとして位置づけられるのが、そろそろ治験の始まろうとしているIPS細胞を用いたパーキンソン病治療です。

しかし、専門性の極めて高い細分化された医療が、地域医療の現場で求められているのかというと、それは違います。おそらく、我々脳神経外科医が地域で求められていることは、「外科医の目と技を持つ神経系総合医」であり、それは神経系疾患の初期治療に始まり、頻繁に遭遇するであろう脳血管障害、脳・脊髄外傷、脳腫瘍(これらの疾患は生死に関わることが多い)に、如何に迅速に、且つ「高度の医療」を患者さんに提供できるか、だと認識しています。

救急が彦根市立病院 脳神経外科の屋台骨

さて、ここで彦根医療圏内における本院の位置づけを明確にしておきます。(表2)
圏内における本院の位置づけ

ご覧の通り、当院の存在意義としてかなり重要な部分を占めるものの一つに救急医療があります。それゆえ自ずと彦根市立病院脳神経外科の存在意義も、「救急医療を通じて地域医療に貢献していくこと」になります。金子隆昭院長(前脳神経外科部長)が院長就任にあたって、平成24年の京都大学脳神経外科教室年報に寄せた院長就任挨拶の中に次のような言葉があります。「たとえ満床でも救急車を断らないようにと病院医局の先生方には無茶なことを言ってきたように思いますが、どの先生も積極的に救急患者に対応してくれました。病院のメディカルスタッフの方々も大変協力的です」と、文字通り、救急が当院の屋台骨であるということを明確にした言葉です。

高度な医療技術と判断能力を彦根医療圏へ還元

このような使命を粛々と実践する現スタッフは、救急疾患として頻繁に遭遇する脳血管障害、脳・脊髄外傷に、迅速且つ「高度の医療」を持って対応できる確かな判断能力を身に着けた技能集団です。我々は彦根に派遣されるまでは、関西圏に存在する大規模基幹施設において厳しい訓練と教育を受け、必要な技能を獲得してきました。そして、救急において迅速かつ確実に対応できる能力は、上記のような神経系救急疾患は言うに及ばず、外来で遭遇するような、あまり急ぐ必要のない疾患・・・例えば、偶然見つかった脳腫瘍や脳動脈瘤、三叉神経痛(さんさしんけいつう)、顔面けいれん、頸椎ヘルニア等・・・についても十二分に対応できる能力を身に着けているということを意味します。これは自慢でもなんでもなく当たり前のことで、一つの診療科を任されるためには最低限必要なことであり、後述するように、そういう指導を受けてきただけです。患者さん、そして開業医の先生方には、彦根市立病院脳神経外科のひとりひとりが高いモチベーションを保ちながら、日々努力しているスタッフで構成されており、持てる能力を彦根医療圏に還元するために派遣されていることを知っていただきたいと思います。

 私自身は日本の脳神経外科医のレベルは概して高く、どこで治療を受けても一定以上の成果を上げることができると思っています。神の手などいりませんし、存在もしません。ただ当科が他施設と異なる点があるとするならば、それは京都大学脳神経外科スタイルの指導と教育を受けたスタッフがいて、本丸である大学の求める治療とほぼ同じものが、彦根でも受けることができるというところです。そして脳外科に関わる病気のことで必要とされるなら、極力「うちではできません・・・」と言わない、高い意志を持っていることです。脳という臓器は極めて不確定要素の強い臓器(不明なことが多すぎる臓器)であり、時にうまくいかないことがあります。よって、少しでもうまくいくように、コンマ数%でも成績が上がるように「重箱の隅をつつく」かの如く医療技術を高める努力を行っています。もっとも、それと引き替えに退院後のきめ細やかなアフターケアが出来なくなったことも事実です。「専門性が高い」ということは「専門バカ」ということです。我々がなんとか「専門バカ」にならないで医療が提供できているのは、当院の各科の医師や総合医である開業医の諸先生方のサポートがあるからです。このようなサポートをいただきながら、全人的医療が地域全体として完結するよう努めています。 

将来の地域医療を担う人材を育成する臨床研修病院

さて、当院は臨床研修病院という立ち位置でもありますが、当科でも専攻医(将来、脳神経外科医として生きていく決心をした研修医)を京都大学脳神経外科教室よりお預かりしています。彼らのほとんどは将来の脳神経外科を背負って立つ人材であり、ゆくゆくは地域医療を担う医師となります。そういう若い医師をお預かりするにあたり、大学から術者教育として、明確な指導ポイントが示されており(表3)、当科でも同一の指導を行っています。
専攻医を対象とした術者教育

一方、彼らは数か月ごとのローテート(病院を順に回って研修すること)であり、頻回に担当医が変わってしまうことで患者さんや開業医の先生方に多大なるご迷惑をおかけしていることも事実です。しかし、彼らは地域医療を支える将来の脳神経外科医であり、ここは、彼らを市民全体で育てているという寛大な気持ちで対応頂けると、彼らも安心して研修を受けることができるでしょう。

 以上、当科の紹介と診療スタンスについてお話しました。次回からは、比較的関わる機会の多い脳神経外科疾患についてお話致します。