ページの先頭です
メニューの終端です。

知って得する病気の話_肺非結核性抗酸菌症について(呼吸器科)

[2017年9月22日]

ID:266

ソーシャルサイトへのリンクは別ウィンドウで開きます

知って得する病気の話

肺非結核性抗酸菌症について

渡邉 勇夫(呼吸器科)

肺非結核性抗酸菌症とは

 結核菌は抗酸菌に属します。非結核性抗酸菌とはおおまかにいうと結核菌以外の抗酸菌です。MAC( マイコバクテリウム アビウム コンプレックス)という菌は、非結核性抗酸菌に属し、MACが分離される肺MAC症は、非結核性抗酸菌症のおよそ80%を占めています。今回は、肺MAC症についてお話をしたいと思います。 

肺結核との相違点

 肺結核は、結核菌が引き起こす病気で人から人に感染しますが肺MAC症では、人から人に感染しない点が肺結核と相違します。 

肺MAC症の感染源

 MACは土壌、水、塵埃(じんあい)などの自然環境に広く存在する環境菌で、水系や土壌などに広く分布しています。ひとの生活環境でも水道水から菌が分離され、浴室、シャワーヘッドなどに定着することが報告されています。

 浴室が感染源であると証明された症例も存在し、浴室は感染源の一つである考えられています。またMACは土壌から人への感染を示唆する研究結果が報告されています。すべてのひとが日常的にMACに暴露されているにも関わらず、発症するのは一部の症例に限られています。肺MAC症の発症には環境因子のみでは説明出来ず、宿主因子も重要と考えられます。感受性のある患者さんに対して生活環境中にある感染源に注意を促し、その対策を指導することは大切と考えられます。

肺MAC症の罹患率(りかんりつ)は年々増加の傾向にあります。発生患者数も増加しており、特に要因を持たない中高年女性が発症する症例の報告が増加しています。 

肺MAC症の症状

 咳(せき)と痰(たん)が最も頻度の高い症状で、血痰(けったん)、発熱、呼吸困難、倦怠感などの症状も報告されています。 

肺MAC症の診断

 画像検査(CT検査)と細菌学的検査(喀痰培養検査気管支洗浄検査)を総合して診断します。CTにて特徴的な画像所見があり、喀痰(かくたん)で菌が2回以上培養されたり、喀痰が出ない場合は気管支鏡検査を施行して、気管支洗浄液での培養陽性などを満たせば、肺MAC症と診断出来ます。 

肺MAC症の病型

 画像的には、線維(せんい)空洞型(空洞;肺に穴があく)と結節(けっせつ)・気管支拡張型に大きく分類されます。MACが肺に定着して感染を起こし空洞を作るのが線維(せんい)空洞型で肺結核類似の上葉の空洞を主病変とする病型です。これに対して結節や気管支拡張病変を作るのが結節(けっせつ)・気管支拡張型で肺MAC症のCT所見で観察される頻度が高いのは、中葉(ちゅうよう)舌(ぜっ)区(く)を主体とする末梢(まっしょう)肺(はい)の小結節(しょうけっせつ)と気管支拡張です。現在、肺MAC症の多くの症例(8~9割)は、結節・気管支拡張型です。

中葉舌区を含む病変の小粒状陰影
(結節・気管支拡張型肺MAC症)

肺MAC症の経過や予後

肺MAC症の経過は、個々の症例で大きく異なります。急速に進行する症例もあれば、症状に乏しく経過が緩慢な症例も存在します。一般に空洞の存在する症例は画像増(ぞう)悪(あく)率が高く、空洞の存在は予後不良因子の一つと考えられています。 

肺MAC症の治療

  • 治療の開始時期
     陰影を限局的に認めるだけでは、治療を開始せず、経過観察される症例も多いです。空洞を認める症例は、空洞の存在が判明した時点で開始するのが推奨されます。進行が早く予後不良になりやすいからです。経過観察していて、陰影が増悪したり、空洞ができる症例は、その時点から開始するのが推奨れます。結節・気管支拡張型でも血痰や喀血を有する症例や病変の範囲が広範な場合、診断後すぐに治療すべきと考えられます。治療開始しない症例においてもある時期から急激に進行することがあるので、定期的に経過観察をするのが望ましいです。


空洞病変
(肺MAC症例;空洞)


  • 治療内容
     薬剤による多剤併用治療を施行します。CAM(クラリスロマイシン)と2剤から3剤の抗結核剤を加えた多剤併用療法を施行します。キードラッグは、CAMで1日 600mgから800mgの内服が推奨されます。多剤併用療法の副作用では、肝機能障害、発熱、発疹と消化器症状や血球減 少も認められることがあります。エタンブトール(視力障害)、SMまたはKM(聴覚障害)などにも注意が必要です。 
  • 治療期間
     学会の指針では、菌陰性化後(喀痰から菌が検出されなくなってから)1年と定められています。治療期間は、12~13ヶ月から24ヶ月となります。空洞を有する症例では治療期間を延長した方が良いと考えられています。薬剤による多剤併用療法が標準治療ですが、副作用で、3剤の内服が出来ない場合は、2剤の内服治療をする場合もあります。高齢者や副作用の問題から十分な投薬が出来ないときは、咳、痰などの症状を緩和し、画像の増悪をおさえることが肝要であると言われています。 
  • 外科治療
     空洞の存在する症例や喀血を繰り返す症例や高度な気管支拡張病変を有する症例は、外科治療の適応になることがあります。 

 

参考文献

・肺MAC症診療Up to Date 非結核性抗酸菌症のすべて 南江堂

・Predictors of 5-year mortality in pulmonary

Mycobacterium avium-intracellulare complex

disease (INT J TUBERC LUNG DIS 16(3):408-414 2012)

・Retrospective study of the predictors ofmortality and radiographic deterioration in782 patients with nodular/bronchiectaticMycobacterium avium complex lung disease

(BMJ Open 2015;5:e008058)