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知って得する病気の話_こどもの細菌性髄膜炎(小児科)

[2017年8月15日]

ID:263

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知って得する病気の話

こどもの細菌性髄膜炎

神田健志(小児科)


はじめに

“ずいまくえん”と聞くと、どのような病気を思い浮かべるでしょうか。みなさんには、とても怖いイメージがあると思います。今回お話しする細菌性髄膜炎は、その髄膜炎の中でも特に怖い病気です。医療技術の進んだ現在でさえ、治療が遅れると後遺症を残したり、命を落とす可能性がある病気です。とくに病気とたたかう力(免疫力といいます)が未熟な4歳未満の小さなこどもに多いことが問題です。そのため、こどもたちにとって大切なことは生後2か月から受けられるワクチンを接種して、細菌性髄膜炎を予防することにあります。

細菌性髄膜炎の年齢ごと・原因の細菌別グラフ

髄膜炎とは

まず、髄膜とはなんでしょうか。髄膜は正しくは「脳(のう)脊髄(せきずい)膜(まく)」といいます。ヒトのからだはたくさんの細胞が集まってできています(全身で約60兆個)。その全身の細胞をコントロールするのが、神経系といわれるシステムです。神経系は、脳・脊髄・末梢神経に分けられています。このうち、脳と脊髄を中枢神経といい、情報の受信とそれに応じて指令の発信を行うコントロールセンターの役割をはたしています。中枢神経は、脳脊髄膜という連続した膜で包まれています。この脳脊髄膜にいろいろな原因で炎症がおこるのが髄膜炎です。細かくいえば髄膜は硬膜・くも膜・軟膜の3つの層に区別されます

通常、髄膜炎とはくも膜・軟膜におこる炎症をさします。

髄膜の名称


細菌性髄膜炎の原因

こどもの細菌性髄膜炎の原因は年齢によって違います。細かい話になりますが、生後3か月までは大腸菌とレンサ球菌、生後4か月以降はインフルエンザ菌Bタイプ(いわゆるヒブ)と肺炎球菌が問題となります。こども全体の患者数でみると、原因の約80~90%がヒブと肺炎球菌です。どちらの菌による髄膜炎も重い病気ですが、より重症になりやすいのは肺炎球菌による髄膜炎で、命を落としたり重い後遺症が残ったりします。


細菌性髄膜炎における原因菌別の死亡・後遺症例


どうして髄膜炎になるのか

元気なこどもでも髄膜炎を起こします。多くの場合、「鼻」や「のど」に付いていた細菌が、粘膜を壊して血液の中に入ります。前述しましたが、こどもは免疫力が未熟なために、大人のように菌を排除できない場合があります。

血液の中で生き残った菌が細い血管を通って、中枢神経を包む髄膜に到達して、髄膜炎を起こしてしまいます。

いつ、だれがかかるかわからない、非常に怖い病気なのです。

 

髄膜炎の症状

典型的な症状は発熱、嘔吐、首の硬直などがありますが、病気の始まりは「かぜ」などと区別がつきにくく、血液検査でもあまり変化が出ません。症状が進んでくると、ぐったりする、けいれん、意識がない、などの症状が出てきますが、この時点で初めて診断がつくことが多いのです。特に小さな赤ちゃんほど症状がわかりにくく、熟練した小児科医師にとっても早期の診断がたいへん難しいのです。

 

髄膜炎の検査と診断

ご存知の方もおられるかと思いますが、背中に針を刺す検査、「腰椎穿剌(ようついせんし)」が診断には必要となります。とても技術の要る検査で、髄膜に覆われたわずかな隙間をねらって針を刺し、そこから髄液を採取します。

その髄液を顕微鏡で詳しく調べて、侵入した細菌を特定することが、適切で効果のある治療を行うためには欠かせません。


腰椎穿刺の様子


髄膜炎の治療

診断がつき次第、早急に大量の抗生物質(医者は抗菌薬といいます)の治療を開始します。このとき、前述した髄液検査が大きな力を発揮します。原因となった細菌を特定できれば、一番効果が期待できる抗生物質を選べるからです。また髄液検査の結果、原因が細菌ではなくウイルスであれば担当医師は少し胸をなでおろします。なぜならウイルス性の髄膜炎は、後遺症も残らず、良好な経過をたどるケースが多いからです。ただし、その区別は慎重になされるべきで、時間を要することがあります。きちっと診断がつくまでは、細菌性髄膜炎の可能性を考えて強い治療が実施されることもあります。

 

さいごに

細菌性髄膜炎はいつ、だれが襲われるかわからない、こどもたちにとって脅威の感染症です。

2016年5月現在、わが国では2つの主な原因菌である肺炎球菌・インフルエンザ菌(ヒブ)に対するワクチン接種を生後2か月から受けることができます。大切な子供たちの命をまもるため、重い後遺症に苦しまないためにも「ヒブワクチン」と「肺炎球菌ワクチン」の両方を接種することがとても大切です。