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知って得する病気の話_子宮筋腫のおはなし(産婦人科)

[2017年10月2日]

ID:15

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知って得する病気の話

子宮筋腫のおはなし

阿知波成行(産婦人科)

子宮筋腫について

 皆さんは子宮筋腫という病気を聞いたことがあるでしょうか。たぶんかなりの方、特に成人されている女性はほとんどの方が一度は聞いたことがある病気だと思います。何となく聞いたことがある。子宮がん検診の時に指摘されたことがある。生理痛や過多月経、不妊症の原因になるという話を聞いたことがあるという方も多いでしょう。しかし、ほんの少しは知っていても、病気についての詳しい情報は知らない方が多いと思います。そこで、女性に多い、良性腫瘍である子宮筋腫について皆さんとおさらいをしてみたいと思います。 

子宮筋腫とは

まず子宮筋腫とは何か。腫とは腫瘍、つまり瘤のことですので、その名の通り、子宮にできる筋肉の瘤(こぶ)ということになります。もっと正確に言うと、子宮平滑筋が原発の良性腫瘍です。その腫瘍がなぜこれほど有名なのか。まず女性の象徴的臓器である子宮にできる疾患であり、非常に発生頻度が高いということがあげられると思います。統計にもよりますが、ほぼ全女性の2割から3割が大なり小なり、子宮筋腫を持っているといわれています。

 筋腫は女性ホルモンの影響を受けて増大するため、初経前の幼児期や学童期に問題になることはありません。また、閉経して女性ホルモンが出なくなるに従い、筋腫も縮小するため、閉経後は筋腫があっても縮小しており、問題になることは稀です。子宮筋腫が問題になるのは性成熟期から更年期、つまり20歳前後から40代、50代にかけてです。 

子宮筋腫の主な症状

主な症状としては、過多月経、過長月経、月経困難症(生理痛)、不正出血などがあります。過多月経や過長月経ではそれによって重度の鉄欠乏性貧血を引き起こすことがしばしばあります。またそれ以外にも不妊症の原因になったりすることもあります。時々筋腫が悪性かしないかを心配される方がいらっしゃいますが、現在の統一見解として、筋腫は悪性化しないといわれています。子宮筋腫と同じく子宮平滑筋が原発となる腫瘍に子宮筋肉腫という悪性腫瘍がありますが、これは子宮筋腫が悪性化したものではなく、症状や診察所見が子宮筋腫に似ているだけであって、もともと別の疾患だといわれています。

子宮筋腫の分類

子宮筋腫はできる場所によりいくつかに分類されます。発生する場所により症状が大きく異なるためです。子宮の外側に出っ張るようにできるのが漿(しょう)膜下(まくか)筋腫(きんしゅ)といい、かなり大きくなっても症状はあまり出ず、子宮がん検診でいきなりかなりの大きさの筋腫を指摘されてびっくりということがしばしばあります。逆に子宮の内腔(ないくう)、胎児を妊娠する部分に出っ張るような筋腫を粘膜下筋腫といいます。これは漿膜下筋腫とは逆に小さくても非常に激しい症状が出るのが特徴で、私の患者でもあまりに大量の生理出血のために輸血が必要となった患者もいるほどです。更にそれが極端になり、茎を作って子宮内より膣内に飛び出すものがあります。まるで筋腫のお産の様にも見えるため、筋腫分娩と呼ばれています。これは特に過多月経が酷くなることが多いタイプです。あと一番多いタイプが筋層内筋腫で、壁内筋腫とも呼ばれます。これはその名の通り子宮の壁の中にできるタイプで、位置も症状もちょうど漿膜下筋腫と粘膜下筋腫の中間的なタイプです。

子宮筋腫の分類

子宮筋腫の検査と診断

 診断ですが、まず診断をするためには受診してもらわなければなりません。不正出血や過多月経などの自覚症状があって受診する方も多いのですが、全く無症状であることもしばしばあるため、まず子宮がん検診を受けることをお勧めします。子宮がん検診、正確には子宮頸がん検診はその名の通り子宮頸がんを見つけるための検診ですが、診察時に子宮や卵巣の確認をするため、しばしば子宮筋腫や卵巣嚢腫などの疾患も発見されます。そこで子宮筋腫を指摘され、外来を受診する方も多いのです。

 では、婦人科を受診した後の診断ですが、まず第一は内診と超音波検査です。内診で形や大きさ、痛みの有無などを確認します。超音波検査ではもっと正確な位置や筋腫の数、大きさなどを確認します。ただ超音波の検査では、筋腫が多数あったりすると、筋腫による乱反射で筋腫がはっきりしなくなることがあります。また筋腫が石灰化していたりすると、完全に超音波を反射してしまい、それより奥の様子が全く分かりません。筋腫が大きすぎてもはっきりわからなくなることもあります。

 ではそういう時はどうするのでしょうか。CTやMRIを使用して、筋腫の状態を確認します。CTもMRIも大きなドーナッツのような機械で、体の断面を診る装置ですが、CTやX線を使用するのに対し、MRIは磁力を使って体の中を診察します。MRIは広い範囲を撮影するには適していませんが、下腹部のような狭い範囲を詳しく診るのに適した装置です。それを使用すれば、奥にある子宮筋腫や石灰化した筋腫、多発筋腫など超音波では判りづらかった筋腫もはっきりと確認することができます。

子宮筋腫の治療

治療についてですが、そもそも子宮筋腫はなぜ治療が必要なのでしょうか。筋腫はあくまで良性の病気です。癌などの悪性腫瘍と違い、これによって命がなくなるということはよほど特殊な場合を除き、まずありません。ですので、癌とは違い、ただあるというだけでは治療の対象になりません。では、どういう場合に治療が必要なのでしょうか。

 一般的に治療が必要とされる場合は2つあります。まず症状です。毎月生理の前に耐えがたい痛みが起きる(医学用語で月経困難症)、気分が悪くなるほどの大量出血(過多月経)、それによって起こる重症貧血などの症状があるときなどが挙げられます。

こうした症状が毎月あるようでは日常生活や仕事に支障が出てしまいます。それにこれは子宮筋腫に限りませんが、病気というものは軽症のうちに治療すればごく軽い治療で済むものでも、重症になるまで我慢していたために、こじらせて時に命が危険な状態にまでなったり、そこまでではなくとも長期の治療が必要になったりした患者を見た経験は、多くの医者が共通して持っている経験です。世の中、我慢は美徳ではありますが、世の中しなければならない我慢は山ほどあるため、不要な部分で無理に我慢する必要はありません。特に健康に関する部分では過度の我慢は厳禁です。

もう一つは大きさです。一般的に成熟女性の正常子宮は鶏の卵程度の大きさだとされています。それが成人男性の握りこぶし以上の大きさになると治療を考えた方がよいと言われます。これは周囲にある膀胱や腸などを圧迫しだすことがあるということと、それ以上に前に述べた子(注)宮(1)筋肉腫の可能性を考慮する必要が出てくるからです。この子宮筋肉腫は数万人に一人程度の発生率とされていますので稀な病気ではありますが、命にかかわる悪性の病気ですので無視はできません。

子宮筋腫の治療方法(手術)

具体的に治療法の説明に入ります。通常一番よくされているのが手術です。これには大きく分けて2つの方法があります。一般によくされるのが子宮を全て切除する子宮全摘術です。

これに対して子宮の筋腫だけをくり抜くように切除する筋腫核出術もあります。しかし、こちらの手術は子宮を切り開いていくため出血が多くなる上、目につかないような小さな筋腫を取り残す危険もあり、不完全な手術になりやすいという欠点があります。こちらの手術の利点は子宮を残せるという点にあります。つまり、今後まだ分娩を考えている方にはメリットがある手術方法です。

 あと、子宮を切除すると更年期障害が来ると心配される方もいらっしゃいますが、これは卵巣を温存すればそれが起こることはありません。

子宮の筋腫だけをくり抜くように切除する筋腫核手術の図


子宮筋腫の治療方法(手術以外)

手術以外の治療法もいくつかあります。手術の次によくされるのが、ホルモン治療です。一時的に閉経状態を作り出す薬剤で女性ホルモンの分泌を止め、筋腫を小さくします。しかし、完全になくなるわけではなく、また使用する薬剤によっていくつかの副作用の存在を指摘されています。

他に過多月経や月経困難症の症状に対して低用量ピルを使う方法もあります。年齢的に閉経が近い人には経過観察と対症療法のみで、積極的な治療をせずに待機する方法もあります。

健康保険の効かない治療になりますが、X線カメラで血管の走行を見ながら、筋腫に酸素や栄養を運んでいる血管をつぶす塞栓療法、収束させた高出力の超音波装置で筋腫を焼きつぶす超音波焼灼(しょうしゃく)療法(りょうほう)などの治療もあります。しかし、これらの治療は非常に高額なこと(病院によって違いますが、大体50万から100万円程度かかります)、特殊な設備が必要となるため、治療できる病院が限られることなどの欠点があります。

 前回と今回の2回にわたり、女性にとってごく身近な病気である子宮筋腫について説明させていただきましたが、もし私は「どうだろう」、「心当たりがある」と思われる方は、とにかくまず子宮がん検診を受けてください。その時に筋腫の有無も確認できます。いつでもお気軽に婦人科を受診してください。                                                                              

 注1:子宮平滑筋が原発となる悪性腫瘍


ホルモン治療による子宮筋腫の治療の図