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知って得する病気の話_貧血(鉄欠乏性貧血)のおはなし(血液内科)

[2017年8月15日]

ID:13

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知って得するする病気の話

貧血(鉄欠乏性貧血)のおはなし

吉川浩平(血液内科)  大橋佐智子 (管理栄養士) 


「貧血」って?

「貧血」には2つの意味があります。一つ目は医学的な「貧血」。これは血液中の赤血球や赤血球のなかのヘモグロビンという色素が少なくなってしまった状態をいいます。2つ目は一般的に用いる「貧血」。立ちあがったときに「貧血を起こして倒れた」なんて話を聞かれたこともあるでしょう。これは起立性低血圧すなわち「たちくらみ」であることが原因です。今回は1つ目の医学的な「貧血」についてお話します。

 

赤血球のしごと

 血液が肺の中を通過する間に、血液中の二酸化炭素は捨てられ、酸素がとり入れられます。全身の組織、細胞は、動脈を通って送られてくるこの酸素の豊富な血液から、酸素と栄養分を受けとり、エネルギーとして生きて働いています。

肺で吸い込まれた空気中の酸素は赤血球に含まれるヘモグロビンと結合し、全身に運ばれるのです。つまり貧血になると酸素の「運び屋」が少なくなるのでからだが酸素欠乏になってしまうのです。


貧血の原因

 貧血は血液の赤血球やそのなかのヘモグロビンが少ない状態をいいますからその原因はさまざまです。鉄やビタミンが足りていない「材料不足」、血液を造る場所である骨髄の病気が隠れている場合「造血障害」、せっかく造られた血液を破壊してしまったり(溶血)捨ててしまったり(出血)。ホルモンの状態や腎臓の状態によっても貧血になります。これらのなかで最も多い原因はからだの中で鉄が足りていない「鉄欠乏性貧血」です。

 

鉄欠乏性貧血とは?

 鉄欠乏性貧血とは、その名のとおり鉄分が不足することでおきる貧血です。鉄は赤血球のなかのヘモグロビンという赤い色素(血液が赤いのはこのためです)を作るのに欠かせない材料なので、不足するとヘモグロビンが十分に作られなくなって貧血になるのです。貧血の方のうち約7割がこの鉄欠乏性貧血です。

 

体内の鉄の動き。

 鉄はからだのなかに存在する微量金属のなかでもっとも多い金属です。健康な成人の体内には、常に3~5gの鉄があります。そのうちの60~70%は赤血球のなかのヘモグロビンに存在し、残りの多くは「貯蔵鉄」として肝臓や脾臓、骨髄に蓄えられており、もしもの「鉄不足」の際、血液に溶け出して不足分を補っています。このため一時的に鉄が少なくなってもすぐに貧血になることはなく、不足した状態が長く続いて貯蔵鉄が少なくなって初めて貧血が出現します。つまり病院等で貧血を指摘されたときには鉄の不足がかなり長期間になっていることを示します。

 その他髪の毛やつめ、皮膚などにも鉄は一部含まれています。

 通常は1日に1~2㎎が便から排出され、バランスのいい食事で1~2㎎が摂取されます。

 

鉄欠乏の原因

 鉄が不足する原因は次の4つです。

(1)    鉄分の摂取不足 偏った食生活や無理なダイエットがもとで鉄が不足する場合です。

(2)    鉄分の吸収障害 鉄は主に十二指腸で吸収します。食事から十分な量の鉄を摂っていても消化管に何らかの異常があってうまく吸収できないことがまれにあります。

(3)    鉄分の喪失 出血が原因で鉄分が失われ食事からの補給が追い付かない場合です。たとえば消化管出血(胃潰瘍、胃がん、大腸がん、膵臓がん、大腸ポリープなど)や月経過多などです。

(4)    鉄分の需要が増加 成長期や妊娠時、授乳時などは普段よりもたくさんの鉄が必要になります。そのため普通の食生活をしていても鉄分が不足してしまうことがあります。

 

鉄欠乏性貧血の症状

 先にもお話しましたが貧血になりますと、からだが酸素欠乏になります。このため疲れやすかったり動悸、呼吸困難、頭痛、めまい、冷え症などがおこるかもしれません。吐血や下血による急激な貧血の進行は強い症状を呈しますが、鉄欠乏性貧血による貧血はゆっくり進行した結果ですので症状が出にくいことがよくあります。駅の階段を上っての息切れは年のせいじゃないかもしれません。


鉄欠乏性貧血の治療

 鉄が欠乏した原因をしらべてその原因を治療をするとともに鉄分を内服することが基本です。鉄剤の注射もありますが悪影響もありますので内服ができない方や大量出血などで急速に鉄の補充が必要な方に用います。

 貯蔵鉄が底をついてから貧血が現れるように、治療は貧血が改善しても貯蔵鉄が十分に改善するまで続けられます。

 

食事で鉄分補給

 日本人の食事摂取基準(2010年度版)によると、鉄の推奨量は成人男性で1日約7g、女性は10.5gです。偏食をせず3食きちんと食べ、鉄分の摂取には以下のことに心がけましょう。


ポイント1:鉄を上手にとりましょう。

  食品に含まれる鉄は、ヘム鉄と非ヘム鉄に分けられます。ヘム鉄は肉類、レバー、青背魚(血合いの部分は特に)に多く含まれ、体に吸収しやすい(吸収率15~20%)です。一方非ヘム鉄は卵、貝類、豆類、緑黄色野菜、海藻類に多く含まれます(吸収率2~5%)。

 

ポイント2:たんぱく質もじゅうぶんにとりましょう。

  たんぱく質は赤血球やヘモグロビンの材料となる栄養素ですので鉄と同様に大切です。1日の目安量(1日1600kcalの場合)=卵1個+魚1切れ+肉70g程度+豆腐1年4月丁です。

 

ポイント3:ビタミンCは吸収の味方。

  ビタミンCは非ヘム鉄を吸収しやすい形に変える助けになります。

  日々の食事に野菜、果物の摂取を取り入れましょう。

 

ポイント4:調理方法や食べ方を工夫しましょう。

  鉄製の調理器具(フライパンや鉄瓶など)を使うと、吸収のよい形の鉄が微量ではありますが料理やお茶に溶けだし鉄を補うことができます。

 

ポイント5:食後はほうじ茶・麦茶がおすすめ。

  緑茶、コーヒー、紅茶に含まれる苦み成分タンニンは鉄の吸収を少し阻害するようです。食中や食後すぐは、ほうじ茶や麦茶などタンニンを含まないお茶がおすすめです。

 

ピロリ菌との関係

 昨今話題のピロリ菌。鉄欠乏性貧血との関係もあるかもしれません。何度も繰り返す鉄欠乏性貧血のひとのなかにはピロリ菌を除菌することで貧血が改善することがあります。

 

過ぎたるは猶及ばざるが如し

 以上、どうすれば鉄をたくさん摂れるかのお話をしてきましたが最後に鉄は多いほうがいいのでしょうか?鉄が過剰に存在するようになるとからだに悪影響をもたらすこともわかっています。鉄が多くなりすぎると細胞の中で活性酸素が多く産生されてしまうので細胞障害がおこってしまいます。なにごとも「過ぎたるは猶及ばざるが如し」とご理解ください。